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【書評】三体が素晴らしすぎた!スケール感と現実感を併せ持った衝撃のSF小説

鉄は熱いうちに打たねばならない。

劉慈欣 氏の書いた三体は、中国発の特級のSF小説です!

「中国の小説ってどんなだろう?」「SFってあまり読まないジャンルなんだよな。」

イロモノに挑む心持ちで読み始めたら、あれよあれよとその世界に引き込まれ、登場人物に感情移入し、物語に散らばる点を集めて謎を考察し、正解を求め読み進め…その勢いで、読み抜いてしまいました。読み終わった熱をもったまま、感想を書き殴りたい。良い小説の読後とは、そういうものです。

三体は、文化大革命の時代に振り回される女性科学者の葉文潔(よう・ぶんけつ)と、現代でナノマテリアルを研究する汪淼(おう・びょう)の2人の目線で描かれる物語です。葉文潔の淡々とした目線は、彼女の境遇を考えると理解できるものの薄ら怖い物を感じる一方、知的ではありつつ常識的な一般科学者である汪淼の目線は読んでいて共感を覚え、まさに自分が三体の世界を体験している錯覚をさせてくれます。

文革の生生しく激しい描写と、狂乱の時代が付けてしまった傷に感情を揺さぶられたかと思ったら。現代を覆う科学の停滞と、科学者達の不可解な自死を追うサスペンス的展開にドキドキさせられ。タイトルにもなっており、多くの謎を内包するVRゲーム「三体」のミステリーな世界観で狐につままれた気分になったり。

読む章によりテイストが違うものの、それぞれ個として読んでも面白く、惹きつけられるわけですが。これが、全体の流れにどう絡んでくるのか読めないまま。点々とした情報だけが溜まっていくわけです。その点を読者なりにつなげて考察しながら読むのが、自分としては楽しかったです。

読み進めていくうちに点と点がつながっていき、より壮大なスケール感の話となり、「敵」の存在が明らかになり、その情報を得るための最終作戦へと物語が進んでいくわけです。このあたりは非常にライブ感が高く、読み止まることが出来ませんでした。会社から帰る電車で読んでいたのですが、あまりに熱中して中断することが出来ず、歩きスマホして読み続けてしまった事を告白します。。

最後の方で、「敵」の情報がドバッと出てくるのですが、このあたりは完全にSFで、著者の想像力の広さ、スケールの大きさ、科学的ハッタリの凄さに頭がガンガン揺さぶられます。ハッタリはハッタリなんですが、読んでいて引っかかる事なく納得させてくるんですよね。もっと頭のいい人、知識がある人が読むとどうか分からないですが、自分は楽しくハッタリを効かされました。とても、良い。

エンディングは、絶望的な中に小さな希望を見出す感じです。この終わり方は自分としては引っかかる物があって、いやいやもっと救いがほしいし、どこかに救いの種になりそうな描写があって読み落としちゃっただけなんじゃないかって、小さな希望の種が他に無いか探してしまいました。結果は…本著は三部作の第一作目らしいので、続編に期待することにします。

そうそう、主要人物の史強(し・きょう)がいいキャラしています。いかにも庶民で現場のオッサンといったキャラで、SF特有のどことなく感じる暗く退廃的な空気、ディストピア感といいますか、そういった空気を一掃してくれます。史強がいなければ、読みすすめるのが二段くらい重くなってました。ハードな物語にタフガイは必要ですね。

総じて、話のテンポが良く、訳も変なところがなく読みやすく、引き込まれるストーリーの、良い小説でした。文革という現実中の現実の出来事を絡め、世間的に情報が少ない中国のお国事情も相まって、とっつき難いSFという分野も、リアリティを感じさせるモノへと変貌していました。

いやー、ほんと凄い小説でした。久々に、人の持つ想像力の凄さを感じた1作でした。

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