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【書評】貧困とはどういうことか?「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」

衝撃的なタイトルに惹かれて購入した本著、著者が実際に英国の底辺と言われる仕事を経験し、その環境に身を置く人々から見聞したものが綴られています。

アマゾン倉庫のピッカー、訪問介護、コールセンター、ウーバーの運転手…社会を陰ながら支える労働の実際や、そこで働くひとの悲哀が生生しく、心に刺さってきます。

本著は、単にアマゾンやウーバーを批判するだけの本ではありません。貧困とはどういうものか、それを単なる見聞だけでなく実経験から描写しているのです。

最底辺の仕事ではあらゆるものが縛られます。

歩数や仕事の実績、労働時間、ユーザーからの評価…あらゆるものが労働者を縛り付けます。こうした労働に従事する人たちは外国からの出稼ぎ労働者が多く、権利についての基本的な知識も頼るべき友人もいません。その日を生きるために、必至に耐えて働くのみです。

非人間的な管理を受け入れ、正社員という餌を見せられて奮闘し、適当な理由で解雇される。搾取を説明するのに、これほど的確な環境もないでしょう。

貧困に生きる人から搾取するのは、大本の会社だけではありません。

少ない給料すらまともに支払わない派遣元の会社に、弱い立場につけこみ家賃を巻き上げる大家、一括払いができない人に分割払いで法外な額をせしめる売り手…ありとあらゆる物が、貧困に喘ぐ人の微かな金や自由を狙ってきます。

単純な重労働に加えて日々の搾取に疲れた人を癒やしてくれるのはジャンキーな食事とアルコール、そしてタバコ。

「底辺で働く人はだらしない生活をしている。自己責任だ。」という考えを、著者は否定します。ひどい環境に置かれた人間はどんな者でも、そうした娯楽に逃げたく成るものだと、語ります。そしてそれらが体を蝕み、心を壊し…これでは貧困からの脱出など、望むべくもありません。

著書の中で、昔の炭鉱労働の話が出てきます。いい仕事と語られる炭鉱も、命や健康を害する労働であり、決して手放しで称賛できる仕事ではありませんでした。ただ、そこには危険に対する団結が生む信頼関係と、経済を動かしている自負からくる誇りがありました。

炭鉱を廃して手に入れた現代の仕事は、労働組合のちからは失われ、仲間同士の団結もなく、皆が皆、バラバラで殻にこもったまま海外からやってきたプラットフォーマーに都合よく動かされるのみです。

英国がなぜEUを敵視しているのか、その理由に触れられた気がします。

本著は小説的な言い回し、過剰に思われる表現が度々登場します。前に読んだファクトフルネスに、人はどうも世界をドラマチックに見る癖があると書かれていましたが、本著も貧困にまつわる悲劇を大きく見せるような向きがあります。

一方で、書かれている内容は著者が実際に経験したもので、紛れもない事実でもあります。これは英国のお話ではありますが、日本でも便利さの影に隠れて多くの「見えない人」がいるかもしれません。時折目にする外国人実習生のニュースを見ていると、そんなことを思わされます。

重たい本で気分も沈んでしまうので、月曜の朝とかに読むには注意が必要です。中間層の仕事がなくなり、代替に本著で紹介されるような仕事が増えているという話は、どうにも将来を悲観的な見方にさせます。これのネガティブを打ち消す、良い案はないのでしょうか?テック、そしてベーシックインカムのような最低限のセーフティネット。そういったものが、今後の救いになっていくと良いなと思う、今日このごろです。

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