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ファンタジーもディストピアも、中国SF短編集「折りたたみ北京」

三体をきっかけに中国SFというジャンルに興味が芽生えたので、買ってみました。

本著は7人の中国SF作家が書いた13の短編を集めたものです。中国SFとひとくくりにしているものの、作風は著者によって全く違います。検閲まっしぐらなディストピア風なものもあれば、抽象的で美を感じさせるものがあったり、面白い視点から描かれた話や、今の世界が抱える問題を風刺した話や、、詰まるところ、どれも独特で「これが中国SFだ!」とくくれる物ではないですね。

印象に残ったものを軽く紹介します。

沈黙都市 /著 : 馬伯庸

近未来。健全なネット、健全な言葉のみしか使用が許されない管理社会で主人公アーバーダンが自由な会話を求めてBBSへの参加申請を行うところから物語は始まります。苦労してBBSにアクセスできたものの、待っていたのは結局は管理された息の詰まるBBS。しかし申請時に得た手がかりから暗号を読み取り、アーバーダンはついに求めていたものを手にするが…。

物語が始まる前に「いまの中国のことを連想しちゃだめだよ」という旨が書かれているけど、それでもやっぱり連想しちゃいますよね、管理社会というと。
息詰まるディストピア社会の中で得た爽快な自由と、いつか崩れるのではとの不安定さを感じさせるストーリー展開は、一気に読み抜けるに値するものでした。

解説によると、物語内には多くのパロディ・オマージュの類があるらしく、そうした背景をすべて把握した上で読めば、更に面白いものになるとありました。残念ながら自分の文化的背景ではほとんど把握できませんでしたが。

蛍火の墓/著 : 程婧波

宇宙から急速に光が消えていく中、少女ロザマンドは母たる女王や民とともに故郷の惑星を捨てて別の惑星へと移り、やがて魔術師の住む城にたどりつきます。時の流れから遮断された城に。 時の流れに取り残されて狂っていく母、光が失われつつ有る宇宙で永遠の光を見つけるといい城を去った魔術師。最後の1節は美しかった。

これがSF?というくらいファンタジー感あふれる作。幻想的な世界観を、ロザマンドの手記として描くことで、儚げで美しく表現していました。いわゆるハッピーエンドでは無い締めではありましたが、読後感はスッキリして、澄んだ気持ちになりました。

神様の介護役 /著 : 劉慈欣

神様が我が家にやってきた!
空を覆う宇宙船から降りてきたのは、地球に生命の種を埋め込んだ高度な文明を持つ宇宙人だった。地球人にとって彼らは神そのもの。神は、彼らが持つ高度な技術と引き換えに自分たちの介護を行うよう持ちかけてくる。結果、20億もの神を地球全体で介護することになるが…。

三体の著者:劉慈欣による短編です。
表面的にはコミカルな印象ですが、高度な文明が退化していく過程や、将来を見越して種を蒔いておく助言など、現代社会の痛いところを刺すような描写が見られます。前者は、日本の現状を指摘されているようで耳が痛い内容でもありました。

サッと読む分には、楽しかったーで追われる本著。ただ介護問題について考えると、ネガティブな発送にたどり着いてしまいます。高度な技術を持ってしても介護は誰かしらの助けが必要である、と。
この本の中には介護について別の視点をもった作品もありまして、童童の夏という、ロボティクスを利用した老々介護の話なんですが、こういう方向に技術が進むほうが未来としては良い方向だな、なんて思ったり。1冊の本で介護ネタで被りがあるあたり、中国でも老人介護は喫緊の課題なのかもしれませんね。

まとめ

「折りたたみ北京」の中で気に入った作品をかんたんに紹介しました。

巻末にある劉慈欣のエッセイも面白かったです。西洋の先進技術への憧れから生まれた中国SFは、道具主義者の目的に沿うため「強く先進的な中国を描いたもの」「科学知識を普及させるためテクノロジー以外を疎かに、単純化したもの」と時代時代の要請にしたがった内容に偏っていたけど、近年になりフィクション部分がサイエンスを打ち破り、多種多様な中国SFがうまれはじめて今に至っている、とのこと。

三体の宇宙が、なんで残酷なの?という問いへの答えも興味深かったです。

あと、短編集は読みやすくていですね。最近は電車に乗らないので、あまりまとまって読書する時間が無く、飛び飛びで読む本は内容を思い出すのに時間がかかり辛いのです。自然、読書頻度も下がっていたのですが、、こういう短いお話をたくさん読むのは、リハビリ感あって良かったです。

三体

三体

  • 作者:劉 慈欣
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: Kindle版