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失敗が許されない機種を設計する痛み

失敗に対する感度が極端に高い開発プロジェクト、が世の中にはあります。

B2Bで納品日がカッチリ決まっている物や、出せば必ず一定数売れる物など、色々ありますが共通しているのは確実に利益が出る、かつ利益がその利益が部署・会社の屋台骨を支えているってことです。

この種の機種設計、それはそれは固有の悩みが付きまといます。大黒柱とも言うべき金を稼ぐプロジェクト、しかし派手さは無く地味でコツコツ、日の目が当たらない。コッチを見ろ、銭を稼いでるのは我々だ!思わずそう叫びたくなる、そんな「失敗が許されない機種の設計」を担当する痛みについて書きます。

冒険はNG

失敗できないので完全新規の検討項目はNGです。理論や、例え試作でOKが見えていたとしても、導入は難しいでしょう。ここで必要なのは実際の安定性、つまるところ実績です。会議やDRの場でツッコまれたら、「実績からすると○○ppmです」と即答する必要があります。そんなデータはない?よろしい、今期の導入は却下だ。

それでもこの種の機種で新しい事をしたいなら、実績を作るしか無いです。具体的には他の、チャレンジングな機種だったり、企画台数的に致命傷になりにくい機種にシレッと織り込んで貰う。そしてデータが溜まったあたりで晴れて導入する、そんなしたたかな立ち回りが必要です。ただし、データが貯まるまで自分が同じ系統の機種を担当している保証は無いです。

かける工数は最小限

冒険をしない機種は設計流用・部品流用が多様されます。

「検討項目少ないし、人も少なくて済むでしょ」

管理職の、心の声が聞こえてきそうなキワキワの人員アサインが、プロジェクトを襲うのです。まぁ、過去もそれで回してきたので、今後も回せるだろうと思うのは自然なことですが。

工数が少なくて苦労するのが、設計以上に設計検証の段階です。多岐にわたる評価、それも「失敗できない」クオリティで確認する必要がある。骨の折れる仕事です。時間勝負なので、工場で組み立てた試作機を最終飛行機でハンドキャリーし、空港から直接出社して評価をスタートする。みたいなことも有ったり無かったり。若さですね。

設計者が自分の設計したものを検証する。そのプロセスは正しいのか、そもそもな疑問が湧く人もいることでしょう。
Japanese Traditional Companyでは、品質保証の部署があっても設計部隊が評価を請け負う所もあります。自分の経験はもちろん、転職者に聞いても設計が評価をやっている会社は枚挙にいとまがなかったので、まぁそんなもんです。

出来て当然、ミスれば減点

冒険しないから問題が起きなくて当然。着々と進行して粛々と出荷までこぎつけるだろう。そう思われているので、試作期間中でも問題が起きたら燃え上がります。

新規要素が無いと言いつつも、新しい形状に新しい金型ですよ、問題がゼロになることは無いです。「なぜ出図前に検証しなかったんだ」「これはもはや新規要素ではないのか」そんな厳しい追求に胸と胃を痛めながら、問題の原因解析と対策検討を急ぐことになります。出来てゼロだった成果も、マイナス評価に。

まとめ

「失敗が許されない機種」を設計する痛みを少しは共有できたでしょうか。

新規性に乏しく面白く無い割に、地味に工数がかかる仕事が多くてめんどくさく、それでいて成果が取れない3重苦。金を稼いで来る役なんだから少しくらいいい思いをさせてくれ、と僕もこれ系の設計をしている時に思ったものです。

目立たなくても会社を回すためにそれなりに頑張っている人達がいます。時々は、その"それなり"にも着目されるようになると良いな、と感じる今日このごろです。

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