WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

CNCは全然万能ではなかった

Computer Numerical Controlによるフライス加工、略してCNC。

コンピュータ制御によって高精度な切削加工を実現するCNCは、材料を塊から削るため強度を有した部品を作れます。型も必要ないので、金型起工を始める前の試作に良く使われます。僕も組立確認の試作で何度もお世話になりました。

形状変更はプログラム弄って終わりで、形状の自由度も高い。試作を繰り返すうちに、僕はCNCに万能感を覚えるようになりました。

それが最近、CNCフル切削の量産部品を担当したことで、僕の中にあったCNCの万能像が崩れてきました。何も知らなかった自分に決別する意思を持って、CNC部品を設計して感じたことをメモしていきます。

CNC

外観が汚い

削りっぱなしだと、どうにも切削の痕、いわゆるカッターマークが残ります。

研磨など表面処理を行ったり塗装をすればいいわけですが、それでも素の状態が悪ければ、外観不良につながっていきます。

加工物の硬さや、刃の送り速度、加工箇所の剛性(ビビリやすさ)、CNCの設置箇所の振動状況など、カッターマークに関連するパラメータはたくさんあり、製造側で頑張るところ設計側で頑張るところ、どちらもあります。

が、どんなに頑張ってもカッターの痕は見えてしまいます。アップル製品でさえ、よく見れば痕があるので、まぁ残っちゃうのです。
temcee.hatenablog.com

バリ地獄

切削なのでいたるところがピン角ですし、バリが出てきます。

バリの何が駄目なのか?

外観に存在すれば怪我に繋がります。塗装やアルマイトが剥がれるキッカケにもなります。
そんなわけでバリを取るために、もうひと工夫が必要になってきます。面取りを追加したり、ブラスト*1を施したりですね。これにより費用、工数が増えますし副作用があったりもします。

治具作成の工数がかかる

プログラムを変えれば形状が変えられる!金型を変更する時間がないからギリギリまで設計検討できる!

無邪気にそう考えていた僕は、「いや、治具作り変える時間がかかるよ」と言われて撃沈しました。加工物の固定や、その後の2次加工にも治具が必要になるわけで…。

そもそも、形状が変わるとカッターパス*2の変更が必要なわけで。その検証を行うにも時間が必要なんですよね。CNCを何工程かに分けて行う場合は、その段取りを考えるにも時間がかかります。

そのやり取りを考えると、普通に金型を削る変更の方が早くできることも。。

工程が分かれると寸法が暴れる

コンピュータ制御だけあって同一工程でのズレは小さいです。ただ別工程で加工する箇所では、セッティングのズレがそのままバラツキとしてのってきます。

プローブで加工物の基準をとってやれば欲しい寸法を狙うことはできます。その場合は、プローブした箇所意外との寸法関連が遠くなってしまいます。そして、これらのバラツキは型物部品のような正規分布にはならないのです。

削る箇所が増える=部品費が上がる

部品の単価はざっくり、材料の量と加工にかかる時間、不良品の発生率で決まってきます。CNCでは形状が複雑になればなるほど、加工にかかる時間が増え、部品単価が上昇していきます。

型物だと、よほど流れに影響するような形状似しなければ、ちょっとした形状の追加が単価の上昇に繋がることはありません。CNCでは、余計な形状を作るにも時間が、お金が必要になります。

本当に必要な形状だけ考えて、シンプルにしないといけないわけです。まぁ、本来はどんな工法の物もそうあるべきなんですが。

まとめ

CNCの部品をもって感じたことをつらつら書きました。

プレスや射出成形、ダイカストに比べ1部品にかかる時間が長いため、フル切削で作る部品には縁が無いかなと思っていましたが、人生はわからないものです。

設計として経験が浅い時は、ほんと切削って最強の加工法だと思ってたんですよね。でもそんなことはなく、当たり前にメリット・デメリットがあるものです。

何かと話題に上がりやすい3Dプリント含め、万能な加工法というのは存在しないと、いまの僕は考えています。それぞれの部品の目的や絶対数量などをもって、最良の作り方を考えて、それにそった設計をすべきなんでしょうね。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

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*1:粒体を加工物に衝突させる加工法

*2:モデル加工機工具の運行軌跡プログラムのこと。加工刃の軌跡。