WICの中から

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小型化は技術ではなく割り切りによってもたらされる

尖らせるって、こういうことなんですね。

SIGMA fpの尖り方が凄い

www.sigma-photo.co.jp

描写優先で大きくて重いレンズを作ることに定評があるシグマ*1が超小型フルサイズミラーレス「SIGMA fp」を発表しました。カメラ本体から要素を排除し、アクセサリやレンズでユーザーの使いたいように拡張できる、柔軟なカメラです。

デジカメWatchの記事に正面視以外の写真が載っています。

左右非対称なストラップ環の高さ

底面デザインの線を増やし、妙にマウント側に寄った三脚座

ビューファインダーと三脚をつけたら押せなくなりそうな底面配置の各種ボタン

ヒートシンクが外観に飛び出しているデザイン(低温やけど…)

思い切ったなーと思わされるところばかりです。思いきらないと、こういうサイズにフルサイズを詰め込んで製品として成り立たせることはできなかったのかな、と思います。

小型化が得意、小型化の技術、そういった謳い文句が、一時期の日本メーカーではよく見受けられました。ただ、小型化というのは技術というより割り切りによるところが大きい、これがメカ屋たる僕の意見です。

割り切りとは何を指すのか、大まかに2つに分けられます。「仕様の割り切り」そして「マージンの割り切り」です。

仕様の割り切りとは

冒頭にお話したSIGMA fp的な割り切りが、仕様の割り切りです。

製品というのは、万人に受けるように設計すると色んな贅肉がついてきます。贅肉は機能も重量も値段も重くし、結果売れない製品へと繋がります。だからユースケースを絞り、ユーザーを絞り、一部の人に刺さるよう企画をするのが、製品設計する人たちの役目です。全部入り○○というのは、製品設計の放棄です。

製品設計を行う上で割り切りは当たり前です。が、通常の製品はバランスを取りながら割り切ります。コストとか、自社他社の機種と比較しながら、話し合って決めるやつです。尖った製品の割り切りはもう1段深くて、1つの大きな目標のために他の物をザクザク切っていきます。

完全な想像ですが、fpは「圧倒的な最小サイズ」「フルサイズセンサー」が至上目的として有り、色んなユースケースを捨て去り、アクセサリにぶん投げして、目指すサイズに収まったのではないかと思います。

で、この割り切りは設計的、製造的な工夫や技術よりも遥かにサイズへの寄与が大きいです。インターフェースが1つなくなる、モジュールを1つ減らす。このインパクトたるや、ですよ。設計的に小型、薄型化するときの常套手段は、材料を固くする、例えばアルミから薄いSUSに変えたりですが、そういう細かい工夫が≒0と言えるほど、仕様を1つ削るインパクトは大きいです。

マージンの割り切り

強度を例にしてみましょう。
ものには安全率というものがあります。想定される負荷に対し、何倍の負荷に耐えられるか?を示したものが、安全率です。100 Nの負荷が加わる箇所に200 Nまで耐えられる構造をとっているなら、安全率は2です。

この安全率を1.9, 1.7...と縮めることこそ、マージンの割り切りです。

上記では強度を例にしましたが、実際の製品では強度以外にも熱や通信や操作性、電気…到るところにマージンが確保されています。このマージンが、量産による部品や組立のばらつきを吸収したり、それぞれ違うユーザーの嗜好・使い方をカバーしています。

そんなマージンを削ることは大丈夫でしょうか?これが結構グレーです。

マージン取りすぎていて、削って問題ない箇所もあれば、削ってはいけないマージンもあるのが実情です。無理してマージンを削っているものは、ユーザーレビューで傾向的にコメントがつくものです。高い処理能力を小さいボディにギュッと詰め込んだ結果、排熱ファンが常時唸りを上げていたり熱により実装部品の損耗が激しかったり...物理現象には逆らえないですね。

問題は、削って良い箇所、ダメな箇所が明確ではないことです。過去の実績・データが無いものに対して、どう理論付けていくか。マージンの割り切りは難しく、何より怖い作業です。

小型化に対し技術的差異がなぜ支配的でないのか

メカの範囲で、小型化に対し技術的差異がなぜ支配的でないのか。これはなぜなら、設計から製造のどこかで外注が絡む(独占技術ではない)かつ、メカは分解すれば他社がやっていることを知れる(=真似できる)からです。もちろん構造がわかったからといって製造プロセスまで分かるものではありませんが、歩留まりさえ目をつむれば、再現できないような内容は少ないです。

メカの工夫は特許として縛るのも難しいですし、優れた構造はすぐに真似される運命にあります。なので、小型化技術なるものは他社を圧倒的に引き離す要因にはならないのです。

まとめ

割り切りで製品は小型になります。

最近はフワッとした大衆に向けての製品は刺さらず、ターゲットを絞って割り切った、尖った物が喜ばれる時代のように感じます。(それか、思いっきり安くするか)

だからこそ、実現したいことだけに注力して割り切った製品を作ることこそ大切なのかと思う一方、日本の会社が苦手そうだなコレ…と感じています。自分も変な製品を担当したことがありますが、社内規格とかち合ったり、品証部門から叩かれたり、色々な人の色々な思惑の中でゴリゴリ削れていくような感じです。ほんとしんどかった。

割り切った製品というのは、多かれ少なかれトラブルに揉まれながら生まれ落ちるものだと思うので、好意的な目線と開発者が喜びそうな驚き方をもって出迎えてあげたいものですね。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com
僕はマージンを削ってボコボコにされた経験があるので、保守的な設計が好きです。

temcee.hatenablog.com
BRIX Pro、そろそろ買い替えたいんですが、このサイズ感でお手頃なのが見つかりません。

*1:僕個人のイメージです