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統計的に正しいけど…累積公差計算(二乗和平方根)の基本と限界

部品は図面やデータから実体を持ったとき、必ずデータ上の形状からブレが生じます。同じ部品を複数作ったとしたら、このブレは均一ではなく、場所や程度にバラツキも生じます。

なので、どのくらいのブレ・バラツキなら許せるか?を設計側で決めておかなければ部品は作れません。そして、バラツキを吸収するための構造が必要になってきます。

複数部品のバラツキを吸収する構造の検討には、累積公差の計算が用いられます。統計的な考え方が入っているので、理屈屋のメカ設計者が大好きなヤツですね。

今回は簡単な設計問題を元に、累積公差の計算方法と根拠、そして限界についてお話します。

バラツキを理論的に加味した隙間設計

公差計算の問題

2つの部品を入れる箱を設計するとします。箱も部品も、それぞれ大きさがバラつきます。A,B,Cの後ろに±で書いてあるのが公差、設計的に許容するバラツキです。

バラツキを吸収するために隙間(D)を設ける必要があります。
隙間(D)はいくつで設定すればいいでしょうか?

足し合わせでも解決、ただし無駄に大きくなる

「公差を全て足し合わせる」これも1つの考え方です。確実に、部品を収納するスペースが担保されます。

ただ実際の製品設計において、全ての足し合わせを満足する筐体を作ると、大きく厚く、商品性の無い物が出来上がります。

隙間(D)を詰めたいが、不良品も出したくない。そこで登場するのが累積公差の考え方です。

部品は公差範囲内で正規分布するという仮定で

公差と標準偏差

まず、部品のバラツキは設定した公差の範囲内で正規分布すると仮定します。また、公差の上下限内に99.7%の部品が収まる、良品が取れるとします。これも仮定です。この良品率は、工程能力としては本当に限界ギリギリで、製造現場が頑張って達成してくれる、ということにしておきましょう。

部品のバラツキは正規分布してるので、標準偏差をσとすると、99.7%の部品が入ってくるのが6σの範囲になります。設計センターから±3σですね。

よって3σ=公差上限と見れます。

分散の加法性

標準偏差を二乗したものが分散、正規分布の散らばり具合を表す指標です。

分散には加法性というものがあります。互いに独立な個々の部品の分散を足し合わせると、それらを合わせたものの分散になります。

分散の加法性を用いると、3部品のバラツキから成る隙間(D)のバラツキが出てきます。

隙間(D)は99.7%が±0.37の範囲でバラつくわけです。隙間を0.37に設定すれば、99.7%は良品が取れます。隙間が空く方のバラツキは問題ないので、0.3%のうち半分も救えて、99.85%の良品率が見えてきました。

なので隙間(D)を0.37で設定しよう!これが累積公差の考え方です。

累積公差の限界

統計的に正しい考え方の累積公差ですが、この考えで設計しても問題は起こりえます。

  • 実際の部品は平均値がバラつく
  • 正規分布しない部品がある(CNC加工品とか)
  • バリや平面度など電子・机上データに現れない物理的要素

前2つは設計時に十分留意する必要があります。僕は、正規分布しない公差については累積には入れず足し合わせますし、平均値が複数部品に渡り都合が悪い方に偏っている場合は、図面寸法内でも現物合わせで型を弄り修正してもらいます。

また、後者。実体をもつ部品は、細かく見るとデータには無い要素があるものです。なので、出来上がった部品をしっかり見て、データと比較したときに違和感を持てるか、金型の作り的に懸念箇所がないかを認識できるかも、メカ屋として必要な素養です。

累積公差を超える物と、自分の工場を持たない辛み

累積公差の考え方でも、あるていどバラツキに対するマージンを確保することになります。

もっと隙間を攻めて製品性を上げたい!部品の良品率を上げたい!

そうした場合、部品の組み合わせまで加味した管理方法を取れば、より攻めた設計を行えます。

例えば、隙間が詰まる方向にブレた部品と空く方向にブレた部品を組み合わせれば、隙間はどうなるでしょうか。どちらも大きくブレていたとしても、隙間は設計センター値に近いものとなるでしょう。

これは機構設計というより、製造側の管理の問題になってきます。

部品を出来上がり具合で何段階かにわけて、都合のいい組み合わせで部品を組めるとしたなら、累積公差以上にマージンを攻める事が可能でしょう。

簡単に聞こえるかもしれませんが、数万・数十万・数百万と製造する部品を、幾多の種類も漏れなく管理するのは、並大抵のことではありません。設計と製造とが知恵を出し合い、なおかつトップダウンで強烈にマネジメントしていかないと出来ないのではないかと思います。そのためには、ファブレス(fabless: 工場を持たないこと)では厳しくて自社で製造部門をもつ意義があるのでは、と個人的に考えています。

確かにファブレス企業でも攻めた設計してるところはありますが、交渉力にお金に、何より相手先に出向く製造技術担当の負荷が物凄いでしょうね。

昔読んだ、「トヨタ生産方式を作った男たち」でしたか。難しいからこそ中でやる、ってお話がありました。難しい部品だからこそ内部で協力して知恵を出し合い、それがノウハウとなり競争力と成る。これは自分にもしっくり来ました。同じ日本の製造業でも、車産業が世界の一線級と戦えている一方、電気産業は切り売りされています。自社に製造拠点を持ち続けたか、製造を外に外にだしていったかの違いが1つあるのではないでしょうか。

おっと、話が公差から飛んじゃいましたね。

累積公差は、優れた考え方の1つです。しかし万能ではありません。そこを認識して、清く正しい公差設計をしていきましょう。

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