加工工具や部品を正しい位置に導くための補助工具をジグ(治具/jig)といいます。ジグの解釈は人や場所でレンジがありまして、僕はなんらかの目的を手助けをする道具を大抵ジグと呼んでいます。冒頭の写真にある、栗の外殻にヒビを入れるプラスチックの部品も、栗剥きジグと言えます。
本当は部品どうしできちんと位置が決まるように設計するのが理想です。ジグを使うには使うなりのデメリットがありますからね。ただ部品どうしで位置を決めるスペースとかがないと、ジグで双方の位置を決めてから組み立てる、みたいな手順が必要になってきます。
組み立てに精度が必要になってくる部品は仕方ないとして、ある程度のラフさが許容できる場合を考えてみましょう。
ジグを使って厳密に位置関係を追い求めなくても、周囲のリブや入れ子PLを目安にしてジグを使わずに、マニュアルで組み立ててもいいのでは?となるわけです。
双方のメリット・デメリットを挙げてみます。お時間ある人はどっちがいいのかなって考えてみてください。
ジグを使うメリット
- ジグの作り込みが終われば以降の寸法は安定する
- 誰が作業しても同じ品質の物ができる
- 組みズレの検査工程を省くことができる
ジグのメリットは安定性です。
ジグさえきちんと作られていれば人や場所を問わず、ほぼ同じ品質で物が組みあがります。この安定した組み立ては、のちの検査工程をスキップできるかも、と工数削減に繋がることもあります。
ジグを使うデメリット
- ジグ作成の費用・工数がかかる
- 組み立て作業の時間が伸びる(ジグ取り回しの分だけ)
- ジグのないところでは組み立てられなくなる(=保守拠点ごとにジグが必要になる)
安定性と引き換えに費用や時間、そして組み立ての柔軟性を失います。費用や時間は保険料と言えるかもしれませんね。
ここで失う柔軟性は保守のあり方に大きく影響します。ジグが組み立てに必須になると客先でのサポートが困難となり、修理は全て引き取りが必須となります。
マニュアル組みのメリット
- 部品以外の費用がかからない
- 組み立て時間が短縮できる
- 場所を選ばず保守できる
マニュアル組みはシンプルさがいいところです。無駄な物がない、組み立て作業もシンプルに済みますし、どこでも改修作業が行えます。
マニュアル組みのデメリット
- 人の違いや疲れ具合により作業がばらつく
- バラツキのためたまに問題が起こりうる
- 問題のために検査が必要になる
マニュアル組みのデメリットは安定性のなさ。安定性の不足・バラツキは時に不良品を生みます。
ただ怖いのは不良品が発生すること、ではありません。
ジグの安定性を保険と見るか
マニュアル組みで問題となるのは不良品の流出です。
「他にも不良品があるかもしれない」
こうなると回収、全品検査…という運びになることがあります。そうなると損失は大変な額になります。
それを恐れるなら、ジグによる安定を選ぶことになります。ただしそれはそれで、製品の保守に関わる決断になり得ます。ジグ費用も作業工数も増える方向なので、利益を圧迫する方向にもなります。
さて、ここまで読んで、あなたはどちらを選択するのがいいと思ったでしょうか?
僕の考えは、ちょっと卑怯なんですが、ジグとマニュアルどちらを取るか、これには明確な答えはなくて、製品の持つ性質や目標となる販売台数、バラツキにより起こると思われる事象により、おのおの最適に思われる選択肢が存在します。
そういうところをバランス取りながら設計し、選択していくのがメカ設計ですよ、というお話でした。
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