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製造業の原価、を分解してみる

発端は良く知らないのですが、ここ最近、TLで原価の話題をたびたび見かけました。

「原価に比べて販売価格が高い」という声に対して、「製造のためのスキルや時間、設備の価値が入っている」といったやり取りですね。

原価を持ち出す人が考える原価とは、どういったものを指しているのか僕にはわかりませんが、設計の傍らValue Analysis(VA : 価値分析)として部品単価を分解している経験から、モノの原価が何から成り立っているかお話していこうと思います。

ここで話す原価の定義

ここでは製品を作るのにかかる経費のことを原価と呼ぶことにします。

原価に製造者の利益分を載せたものが販売価格・部品単価になります。

「大手メーカーが下請けに無理言って安く仕入れさせている!」
VA活動はそんな見方をされることがありますが、これは誤解です。

部品単価を分解して製造方法から見直すことで部品原価を下げ、利益の部分に手を出しません。自分の利益が減るような活動に手を貸してくれる人はいませんし、コンプライアンスは大切です。

材料費・労務費・経費

原価を大きく分けると章題の3つに分類できます。

  • 材料費:原料費、買入部品費、燃料費、工場消耗品費、消耗工具・器具・備品費など
  • 労務費:従業員に対する賃金、給料、雑給、賞与、手当、退職給付引当金繰入額など
  • 経費 :減価償却費、水道光熱費、賃貸料、外注加工費、ロイヤルティーなど

製造原価 - Wikipediaより引用

何となく分かる気がするけどモヤッとしますね。もうちっとメカ屋的に分解していきましょう。

材料費

金属だったり樹脂だったり、部品の原料です。

ここで意識しないといけないのは、単純に部品に使われている材料だけが材料費ではない、ということです。

樹脂の射出成形ならランナーの部分が、フレキやプレス部品ならスクラップの部分も材料費に入ります。

ロの字の両面テープを例にすると分かりやすいです。

スマホのガラスを貼り付ける場面を想像してください。防水仕様だと、水が入らないようにひと繋ぎであるのに対し、非防水だと短冊形状4つで出来ます。

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ひと繋ぎだと内部のテープが無駄になるのに対し、短冊だとシートに無駄がありません。このあたり、材料費に効いてきます。

後は金型やツールなど、小さく壊れやすいものを使っていると消耗品の費用として大目にコストに乗ってきます。

人手と時間

労務費にあたる部分ですね。どれだけ設備を動かしたか、人の時間を拘束したかがコストに響きます。

国によって人件費はまちまちですが、人の手を借りるとやはり高くなります。組立や検査など、ロボットでも組み立てられるように単純なものにして自動化を意識して設計することが重要です。間違いも減りますしね。

1部品あたりの設備稼働時間も重要です。CNC加工などはプログラミングされた通り自動で加工してくれますが、削る量が多く加工時間が長くなるほど高くなります。

そのため、事前にダイカストやプレス、鍛造などでざっくり形状を作っておいてからCNCで細部を作りこむなど、加工時間を減らす取り組みをしています。

外注費

塗装やアルマイト、メッキなどは製造依頼元から、さらに外注に依頼されることがあります。大がかりな設備が必要ですし、危険な薬物を多く使うので環境規制の激しい昨今では、新規に自前で持つのも難しそうですしね。(余談ですが、中国は環境規制でいろいろ大変そうです)

外注でひつようになった分が、上乗せされるわけですね。

歩留まり(もっと言うと、直行率)

作ったもののうち不良品を除いた良品の割合を言います。これには1度不良品としてリジェクトされたものを修正して再投入されたものも含まれます。直行率は、そうした再投入品を省いた、1発で良品が取れた率を表します。

成形・切削・塗装など各工程ごとに一定の不良品が発生しますので、捨てる不良品の分だけコストが積まれます。

工程が増えることによる歩留まりへの懸念は2つあります。

1つは単純に、工程が増えるだけ歩留まりがかけあわせになり最終的な歩留まりが低くなることです。

例えばデザイナーが趣向を凝らした5層の塗装を実施するとします。

1層の塗装の度に98%が良品、残る2%がゴミの入りこみなどで不良になるとすると…5層の塗装では98%の5乗で90%程度が良品として残ります。約1割が不良品となり、結構なお値段が上乗せされることになります。

2つ目の懸念は、後の工程に運ぶものほど捨てる値段が高いことです。

同じ不良率だったとしても、最初の工程と、最終工程での不良品のインパクトは違います。のちの工程は歩留まりを下げるような工程を組み込まないよう意識します。

設計段階でコストの80%は決まる?

設計段階でコストの80%は決まる、とよく言われます。
設計者が工程や材料の取り数まで意識していると、製造しやすいものを設計するので、歩留まりよく工数も抑えられたコスパのいい部品が出来上がります。そういう意味で、確かに設計段階は重要です。

一方で、設計以外でもコストを大きく変えられることもあります。それは製造先をかえることです。転注と言います。
人件費が安いところ、製造ノウハウを多く持っていて難しい形状を精度よく仕上げられるところは、同じ図面の物であったとしても安く仕上げることが出来ます。

日本のメーカーに製造委託していた部品を中国のメーカーに転注したところ、精度も良く部品単価も1桁安くなった…なんて話を聞いたこともあります。

設計は確かにコストを決める大きな要因ではあります。そして同時に、だれが作るかも、同じくらい大きな要因であるわけですね。

まとめ

原価と一言で言っても、その中にはいろんな費用が入っているものです。原価を元に販売価格への言及を行う人は、どの程度のVAが出来ているのでしょうか?

僕は自分と同じ業種だとしても、部品単価をきれいに分解する自信はありません。もしパッと見で原価を見抜く目を持っている人がいるなら、羨ましいものです。

今回はあまり触れませんでしたが、金型や成形機といった設備・資産の費用もモノづくりには絡んできます。会計的に別物で、ここをお話するには知識の方が追い付いてないですが、余裕が洗う時に勉強して触れてみたいものです。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com
日々改善しようという意識が長い目で見て工場ごとの実力の違い、原価に響いてくるように思います。

temcee.hatenablog.com 最近は東南アジアに製造が移りつつありますねー。シリコンバレーとか綺麗でハイテクなところに出張してみたいものです。