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ハードウェアハッカー 第一部 量産という冒険、に感情を揺さぶられた

量産について思いの丈を書き殴らずにはいられない!なんてこった、なんてっこった!

全4部の、まだ1部しか読み切っていないにもかかわらず、感想を書きたい衝動に駆られてしまった。量産について綴られた第一部は、量産設計を生業とする僕を熱く焚きつけるものがある。熱くなった鉄は、熱いうちに打たなければならない。

本を楽しめる人

ハードウェアハッカー。タイトルからしてクリエイター寄りの人に向けた本だ。

第一部の内容も同様だ、ハードウェアスタートアップでの成功を夢見る人や趣味で自分の手を動かしてハードを作る人、そして僕みたいに職業としてハードのエンジニアをやっている人。そういった人が読めば、著者であるアンドリュー“バニー”ファン氏の体験を明確に想像できて面白いし、知識の幅も広がるだろう。

読んで欲しい人

ただ個人的な思いを述べさせてもらうなら、僕はモノづくりなんて良く知らないし興味も薄い、一般の人に読んで欲しい。

いや、分かってる。この本に書かれているのは物が出来上がる過程であり、一般の人がハードウェアに求めるのは結果だ。

洗練されたデザインでピカピカの筐体、エラー無く正常に動作する諸機能。そういった物を求める人にとって、「どう作ったか?」なんて問題にはならない。それはわかった上で、なお読んで欲しい、と思わされた本だ。

第一部で書かれていること

第一部は大きく3つの章に分かれている。唯一の共通項は「量産」だ。

  1. バニー氏のスタートアップにおける冒険
  2. 3つの異なる工場を見ての所感
  3. 量産のための指南・How to

それぞれについて軽く触れていく。

「スタートアップにおける冒険」と作り手へのリスペクト

最初の項ではバニー氏がスタートアップでchumbyを作るため中国で奮闘した経験談が書かれている。

この章で強く印象付けられているのは中国の製造者に対する深いリスペクトだ。

量産はハンドメイドとは違う。効率的に、かつ乱れ無く製品を作り上げていく必要があるし、そのための技術は学問として体系化されていない、出来ない領域だ。各個人・工場が長年にわたって蓄積したノウハウ・経験こそが、量産を支える鍵となる。

ハードウェアハッカーを通して、バニー氏が量産までのプロセスで量産ならではの設備や技術に驚き、またお世話になった様子が伝わってくる。そして、問題を解決するために工場の人々が協力してくれたことも。

現場で量産を支える日陰的な立場の人や技術、それらを重んじる姿勢は読んでて非常に気持ちの良い物がある。現場は量産に関する情報がすべて詰まったいる重要な場所で、ここを良く知ることから量産を乗り越える準備が始まるのだ。

3つの異なる工場を見ての所感

ここではArduino、USBメモリ、ジッパーという、経路の違う3つの工場の量産工程の様子が描かれている。

バニー氏の好奇心と技術へのリスペクトから得られる観察眼、そして解説は3製品の量産工程を分かりやすく説明してくれる。

その観察を通して得られるのは、エンジニアリング的な正しさと商品設計的な正しさの間にある矛盾。デザインが機能を凌駕する様子だ。

さらに深くこの章を読み込むと、見えてくるものがある。「その製品が大切にしている価値」だ。

優れた量産品は余計な物がそぎ落とされ、「思想」が最後に残る。ここに、製品設計のヒントがあるのかもしれない。

「量産のための指南・How to」と大企業で過ごす3年

この章は学びの章。量産を無事に乗り切るための指南書といったところ。

開発品が何なのか分からない、外部の人を絡める工程、それが量産設計だ。曖昧な要素を排除し、自分の意図するものを相手にわかる形にする必要がある。

同時に、自分の頭と物理原則のすり合わせも必要だ。作れないものを3D-CADに描いても、それはお絵かきでしかない。

設計だけに限らず、量産品を作るために必要な知見が、ここにつまっている。スタートアップ経験者ならではの、広くしっかりした知見がね。

まとめ

量産という冒険、とはよく言ったものだ。

量産までの道のりは山あり谷あり、楽しいこともあれば苦しい場面もある。無間地獄とも感じるプロジェクトになることもあるだろう。

そうした、量産の全部!が、ハードウェアハッカーの第一部には詰まっている。

僕自身、追体験してウンウン頷けるところもあれば、僕が知らない分野の話で勉強になることもあった。カバー範囲が果てしなく広いのだ!

何かを作るというのは苦難が伴うし、製品の影には目立たずもいろんな技術やノウハウが詰まっている。その辺をもっといろんな人に知ってもらいたい。それが、一般の人に読んで欲しい理由だ。

第2部以降は、知財のことやオープンソース、そしてハッキング…と少しずつ僕の領域をこえ、より「ハードウェアハッカー」というタイトルに収束していくように思う。ハードウェアを巡る本著の冒険はこれからだ、終わったらもう一度、総括する意味で感想を書くぞー。

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