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【書評】『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か 』製造技術者には必読書と言えるかも

『ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か 』は赤字経営に苦しむ工場が業務改善していく様子を描いた小説であり、経営畑で良く取り上げられるビジネス書としての側面も持つ名著です。

嘘か誠か、著者が日本を脅威と感じており、業務改善プロセスが日本に伝わることを恐れて長きに渡り日本語訳が出なかったと語られています。

本作で語られている内容は工場のみならず一般的な業務でも通用する内容で、ビジネス書として人気が出るのもわかります。しかし、これわやはり製造業、特に工場で働く人にこそ一番読んで欲しい本です。本作で綴られる工場の悩みは製造にかかわる人なら頻繁に出くわすことであり、主人公がまさに自分かと思うほどに感情移入でき、大いに楽しみ学ぶことができるでしょう。

「君の会社の目標とは何だね」

本作の主人公アレックス・ロゴは工場長です。工場は赤字続きの苦しい状況が続いており、三か月以内に改善が見込めない場合は工場を閉鎖するとの勧告を受けます。

最新のロボットを入れて効率は上がってるし、工員たちもフル稼働で働かせている。アレックス自身も家族と疎遠になるくらい、仕事に身を捧げている。なのに部品の納期には間に合わないし、経営状況は良くならない。追いつめられつつあったアレックスだが、かつての恩師ジョナと思いがけず出会ってから、少しずつ工場の再建が始まっていく。

そんなジョナの最初の問いかけこそ、「君の会社の目標(ザ・ゴール)とは何だね」というものです。

利益を上げること

アレックス達は「効率よく仕事すること」を目標としていました。しかし、そうじゃないんです。会社の本当の目的とは「利益を上げること」であり、効率を上げるのはその手段でしかないのです。

目標を転換し、その評価基準までガラリと変更していくことで、アレックスや工場で働く人々は本当の問題を捉え、一歩ずつ改善を進めていきます。

ボトルネックの発見や改善に向けての試行錯誤はまさに工場であり製造業です。同じ製造業で働く身として、思ったように部品が上がらない苦悩は共感できるものがあり、だからこそ改善の効果が見えてくると興奮を覚えます。

ラブ・ロマンスはいらない

本書は工場の危機とともに、夫婦の危機も描かれます。僕はこれ、無い方が良かったんじゃないかなーと思ってます。

家族との不和と、その改善を描いていくことで「いい流れ」を印象付けるようにしたのか、はたまた「改善プロセス」が製造以外…家庭においても機能することを描きたかったのか、はたまた家庭の様子を描くことでキャラクターの深堀を行いたかったのか。意図は色々あると思うのですが、工場の話で盛り上がっている最中に家庭の話を差し込まれると、冷や水を浴びた気になります。ここでストップかけなくてもいいでしょ、的な感じです。

夫婦喧嘩の様子はお互い様な感じで、どちらも幼い印象を受けてしまいました。あれだけしっかり工場について考える人が家庭でコレは無いでしょ、とも感じました。日本とアメリカで勝手が違うのかもしれませんが…(日本では子供をほっといて出ていく親ってのは考えにくいですから)

まとめ

本書で提示される思考プロセスは製造業以外でも通用するものです。しかしストーリーを読むことで沸き立つ興奮は、やはり工場を知る者にしか味わえない特権です。特に、工場で「どう作るか?」に日夜悩まされる製造技術者は、まるで自分事のように感じるはずです。

だから僕は本書をビジネス書としてではなく、小説としてオススメしたいです。「何かを学ぶんだ!」と身構えて読むのではなく、気楽に開いて色々な感情を受けながら読み流して欲しいものです。

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