電気製品を設計する時、鉄(含ステンレス)と並んでよく使われる金属があります。アルミです。
アルミといえばアップル製品によく使われていますね。アルミを削り出して作ったボディは高級な金属光沢を有し、触ると冷やっとした感触と確かな剛性を感じ、所有欲を掻き立てられます。まさに、アップルのデザインに対する姿勢を象徴するような素材ですね。
アップルに感化されてか、自分の周りでも、高級感のためにアルミを使いたがるインダストリアル・デザイナーが多いですね。
今回はそんなアルミの特徴を書いていきます。
塗装ではない「アルマイト」
アルミに色を付ける時には塗装ではなくアルマイトを使うことが多いです。
ニュースサイトでは陽極酸化処理とよく呼ばれます。Anodizeを直訳したものだと思いますが、せっかく日本で発明された手法なので、「アルマイト」と元々の名称で覚えましょう。
アルミ表面の酸化皮膜を人工的に成長させ、皮膜の穴に染料を吸着させて、穴を封じ込む。これがアルマイトです。耐食性と硬度を上げる効果があるのですが、何よりも色の加減が独特です。
染色後もアルミ地肌の金属光沢は保たれており、色の着いた金属光沢が楽しめます。表面にサンドブラストやヘアラインなどの処理を施すと、これまた違った印象を与えてくれます。
この多彩な表現力こそ、アルミが外装に使われる大きな要素です。
アルミを外装に使いたいがため、中身は樹脂で作りアルミの板だけ貼り付けた、なんて筐体も多く存在します。
多彩な合金たち
鉄ほどではないにしろ、アルミも数々の分野に合わせた合金が生み出され、活躍しています。
アルミの合金は世界共通の4桁の番号で種別が表されます。
僕の所属する小型電機業界でよく使われるのは以下のアルミです。
- 1000番台:純アルミ、柔らかいがアルマイト性がいい
- 5000番台: マグネシウム系、強度が高くアルマイト性もいい
- 7000番台: マグネ・亜鉛系、超硬い、戦闘機に使われる超々ジュラルミンが有名
7000番台はアルマイトの色を出すのが難しい、と昔教わりましたが、最近では露出が増えてきましたね。製造技術の進歩といいますか、ノウハウが貯まってきたんでしょうね。
ジュラルミン→超ジュラルミン→超々ジュラルミン
ジュラルミン・超ジュラルミンは2000番系の合金です。これまた飛行機に使われる、強いアルミですね。
超々ジュラルミンは、アメリカ軍の使っていた超ジュラルミンを超えるものを、との目的で開発され、零戦などに使われてました。
それにしてもこのネーミング、まんまですが…もうちょっといい名前なかったんですかね?
優れた耐食性
アルミはアルマイトを行うことで厚い酸化皮膜を作りますので、腐食に対して強いです。
とはいえアルミそのものは腐食しやすい金属なので、酸化皮膜の割れ目から海水などが侵入すると錆びます。他の金属と接していても、電食(ガルバニック腐食)により腐食が進行します。
自分が中古で買ったTG-3 も、アルミのリングがネジのところで白く錆びてました…耐食性に過信せず、水がついていたらきちんと拭き取るのが吉です。
また、酸化皮膜は絶縁層なので、導通を取るならアルマイト後に切削して地肌を露出させないといけません。アルマイト剥がしってやつです。
高い熱伝導率・熱容量(比熱)
鉄からアルミへの置き換えで意識されるのが熱伝導率の高さ、熱容量の大きさです。
画処理なり計算なり、電子機器では電気を使って仕事をした結果、損失が熱となり発生します。熱が上がると機械は性能が出ないですし、高温の機材は人にとって危ないです。そのため内部の熱を効率よく排除するのが、熱設計です。
熱設計においてアルミの果たす役割は大きいです。高い熱伝導率は熱の拡散を早め、大きな熱容量は機材の温度上昇を遅らせます。
熱拡散についてはアルミを使うよりもグラファイトや、ヒートパイプの方が得意かもしれません。ただ熱拡散・移動が大きな力を発するのはファンなど、強制空冷がある場合です。自然放熱しか排熱手段がない場合は拡散してもサチってしまうため、熱容量が大きく効いてきます。某社のカメラで、録画時間を延ばすためと思われるアルミの塊が入ってた、なんて設計もありましたしね。。。
比強度の高さ
昔は比強度、密度に対する引っ張り強さ、がアルミの特徴だと言われることが多かったです。最近は、マグネ合金とかマグリチウム合金にその座が奪われた印象です。
最もこれは比強度だけの問題ではないかもしれないですね。
マグネシウム合金、金属筐体でよく使われます。マグネを使う時の製法としてダイカストやチクソ成形があります。これは型に湯を流し込んで立体的な形状を作る製法で、形状の自由度が高いです。
アルミもダイカストが使えますが1つ問題があります。ダイカスト用のアルミは不純物が多くアルマイトに適さないのです。この点で、アルミを使うモチベーションが無くなります。
また比強度は高くとも、単純に強度だけ見るとSUS(ステンレス)より弱いです。SUSをアルミに置き換える場合、重量と引き換えにサイズが大きくなります。
重量とサイズのどちらが重要なのか。それは製品カテゴリによりけりです。ただ自分の経験からすると、0.1mmの持つ商品性の重さは0.1gとは比較にならないですね。
降伏点がはっきりしない
アルミは変形する時、元に戻る変形(弾性変形)と永久変形(塑性変形)が同時に進行します。ちょっとした変形でも、一部は変形したままというわけです。最も大半の金属はそういうもので、弾性変形と塑性変形が明確な鉄の方が珍しいとも言えます。
塑性変形が容易に起きる、という点で強度部材としてアルミを頼るのは怖い、というのが僕のスタンスです。
近年、アルミに直接タップを切りネジを打っている製品を見かけます。長期利用しているうちに緩んでこないんでしょうか?
終わりに
アルミの特徴について書いてみました。
やはり外観要因が強いな、というのが僕の感想です。中で使うにはやはりSUSの強さやバネ性が魅力なんですよね。熱をどうにかしたいときはグラファイト使いますし、安くしたいときはSECCですし。
この記事を書く上で心残りが1つあります。アルミ製品の写真を探してみたんですが、特に色付きのアルマイト、いい写真見つからなかったんですよ。1枚くらいはいい写真あると思ったのに。
そしてアルミ製品自体、あまり持っていないことに気が付きました。
アルマイト、実は危険な薬品を多く用いる手法です。(硫酸とか)中国では環境規制が激しくなりアルマイト設備を持つのが難しくなってきた、なんて話も聞きますし、アルミ製品も少しずつ減っていくかもしれませんね。ちょっと寂しい、そんな今日この頃。
こんな記事も書いています。 temcee.hatenablog.com