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衝撃系試験はデジタル解析で見切るのが難しい

ちょっと前に衝撃系の試験の解析制度がTwitterで話題になってまいた。

自分の知識の範囲では衝撃系って解析でピッタリ当てるの大変なんですよね。色々要因があるので、自分の整理がてら衝撃解析と現実との差異がどこから来るのかまとめてみます。

ちなみに自分は本職設計です。いわゆる設計者シミュレーションのレベルでしか解析を使ってません。分かる人向けの言葉を使うと事象を簡略化して陰解法で静的に解くことが多く、たまに陽解法で動的な問題もやるレベルですね。

固定条件の違い

解析で部品同士・面同士の関連は接触か固定かになります。デジタル上で固定すると当たり前ですが完全にくっつきますね。

一方で現実世界だと完全な固定というのは無くて、接着剤や両面テープは剥がれうるし、溶接や部品形状は破断しうるし、ねじやナットの固定もミクロに見ると材料同士の接触面圧と摩擦係数で止まっているだけにすぎません。
なので衝撃みたいなモードだと状態が変わるんですよね。

マルチステップで境界条件変えたり事前に解析が弱めになるような設定入れておけば現実の減少に近づけるのですかね。

ウェルドや巣など製造不具合の存在

成形品ならウェルドや巣、プレス品ならロール目など。製造上の不具合やら避けられない制約が現実には存在してしまいます。

ウェルドは流動解析で発生個所は推測できるものの、どの程度の密着強さなのかは成形条件にもよるので見切るのは難しいのかなと。
巣は、存在すると破断強さだけでなく見た目のヤング率にも効いてきますね。こうなると変形挙動が変わることもあるでしょう。

摩擦係数

部品同士が接触するところには摩擦が発生します。摩擦の挙動は高校で習う静止摩擦係数と動摩擦なわけですが、それらは材料および表面状態に依存します。きちんとした値を入手するには高校物理の実験を実際の部品でやればいいです。しかし組み合わせが大量にあるので、そんなのいちいち測ってられないでしょうというのが個人的な干渉です。

設計者には手に余るのですが、解析専門の人がいればこういうところのデータ取りとかもやってるんですかね。

3Dデータと現実の違い

3Dデータは理想的な状況、つまり設計値センターで組みズレゼロで作られるものです。一方で実際の部品は公差の範囲内で理想形状からズレ、組立も許される範囲でバラつきを伴うものです。

このバラつきが評価において有利不利に出るかは読めないのですが、こういった差異が解析と現実での現象に影響してくるものです。

また接着剤の固着後の佇まいや、溶接痕を現実に即してモデリングするのもなかなかに限界が。。

試験自体のバラつきの存在

衝撃試験の場合、最初に衝撃が発生する箇所がどこかによって内部の変形挙動が大きく変わります。

例えばぶつかりに行く試験においても、完全に真正面でぶつかることもあれば、多少なりとも傾斜が付いて接触点がずれることもあるでしょう。

上図は極端に描いていて、実際の試験はばらつかないように配慮されることが多いと思いますが、それでもミクロミクロに視点を移していくと毎度の接触点、接触角は違うんですよね。神は細部に宿るとは言いますが、設計者としては実機評価のさいに細部の神様がいたずらをしないようお祈り申し上げるのが常であります。

まとめ

衝撃試験を解析で再現するうえでのハードル、自分が思いつく限り挙げてみました。

現実をトレースしきれないところに関しては、自分が知る限りは実機検証を合わせて行って、解析条件だったりモデルだったりを現実に近づける作業が必要になるのかなァと思います。なので解析だけで現実の衝撃試験をトレースするのは難しいし、精度を上げていくにもそれなりの工数がかかる。果てしなく精度を追い求めていくと時間的にもお金的にも実機作った方が良いのでは、となることもあるでしょう。

ちなみに、解析条件のノウハウ積み重ねが解析精度向上に効いてくるんですよね。そういう意味で同一の設計思想、プラットフォームを使い倒すと解析の貢献度は高くなっていきます。フルスクラッチだと、ここら辺のノウハウ詰みなおしになるので結構しんどいのですよね。

ま、何にせよ解析精度もAI分野みたいに激しく進歩してほしいですね。
設計者としても実機一発勝負はメンタルに非常に悪いので、「解析上大丈夫だから試験も問題ないっす!」と心から言えるようになりたいです。

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