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ダークサイド・シミュレーション・スキル

設計物の完成度を上げるため、より良い形状を探求するためのシミュレーション、これはいいシミュレーションです。

しかし世知辛い世の中を渡るためには、時に闇のエンジニアリングに手を染める必要があります。具体的には、試作を作る許可を上司から得るため、「この構造は完璧で完成系なんだ」という理論的なデータを集める時にも、シミュレーションが使われるのです。

普通にシミュレーションの結果をパワポに貼る分には、闇の要素はありません。ただし結果のインパクトを求めて、シミュレーションの条件に恣意性が混じった時、まさにダークサイドのシミュレーションになるのです。

あまり褒められたことではありませんが、インスタ映えならぬ資料映えというのは仕事を円滑に進めるために必要な要素です。今日は、僕がたまに使っている、ダークサイドなシミュレーションスキルを、ちょっとだけ紹介します。

前提として

ここで言うシミュレーションは落下や荷重解析です。いわゆる強度シミュレーション。

シミュレーションを資料に使う場合、僕は単品の解析結果だけで使うことはしません。必ず、リファレンスとして実績ある形状(=量産品)を、同条件の解析にかけて、その相対比較を資料化します。

これには2つ理由があります。

1つは、シミュレーションは絶対値でピタっと合うことが、まず無いからです。だからリファレンスとして実力が判明している現物が無いとOK/NGの閾値が定まらない、と僕が考えているからです。(承認する側の人に、この認識があるかはわかりませんが。)

そしてもう1つは、モデルが2つある方がダークサイド・シミュレーションにとって都合がいいからです。単品解析だとOK/NGの閾値に降伏応力を使うことになるかと思いますが、金属はともかく樹脂の解析だと大体の試験で容易に降伏応力を上回り、小手先の条件弄りでは何ともできないのです。

そんなわけで、今後のお話にはリファレンスと設計物、2つのモデルが存在すると思ってくださいな。

メッシュ・コントロール

部品のメッシュは、細かければ細かいほど現物に近い結果が得られます。荒いメッシュだと、応力集中を防ぐためのR(ラウンド)形状が角形状になってしまい、高めの応力が出る懸念があります。細いシャフトとかも、同様ですね。

これを利用し、良い結果であってほしい部品を、一部細かいメッシュで切るのが、メッシュ・コントロールのダークサイドスキルです。

部品全体を細かいメッシュで切ると計算に時間がかかるし、データも重くなるので、応力が集中しやすい箇所のみ細かく切るようにしましょう。

ネジ固定オプション

ネジでの部品固定を完璧にシミュレートしてくれるCAE(computer aided engineering)を、僕は知りません。

ネジで部品が締結される理屈は、ねじを締めることで発生する軸力と、ねじ座面の摩擦力によるものと、僕は理解しています。

シミュレーションの条件付けでは、軸力も摩擦力も再現ができず、「固定」もしくは「接触」の条件が入れられるだけではないでしょうか?

そんなわけで、ねじ固定の条件を付ける場合、僕は下記2つのうち自分に都合のいい固定方法を採用します。

①ねじのモデルを用意して、ねじとタップ部を固定する
②ねじモデル無しで、タップ部と被締結材のねじ穴内径を固定する

パーツ・セレクション

強度シミュレーションを回すとき、大抵は強度に寄与しそうな部品のみピックアップして解析を行います。これは計算時間と解析条件の設定工数を削減するためです。

しかし解析の規模が大きくなってくると、具体的には、機器全体の落下シミュレーションなどでは、強度に関連する部品が多く、本当に小さな、ちょっとした部品の有無が結果に影響を与えることがあります。

解析結果が一番都合が良くなるように、解析に使う部品を選定するのが、パーツ・セレクションです。当たり前ですが、明らかに強度に寄与する部品は省かないように。

落下位置調整

落下は最もシミュレーションで再現できない破壊モードです。何故なら、シミュレーションのように、綺麗に落下することは、市場ではもちろん試作品の評価でも難しいからです。

そんなわけで、落下の位置・角度を微妙に振って、一番使いやすい結果が出たものを採用するのが落下位置調整です。

ダークサイドスキルには、何等か横文字を入れようと思ってましたが、英語の語彙力が尽きてしまいました。

まとめ

僕がたまに使っている、資料映えするシミュレーション結果を得るための手法を紹介しました。

このスキルはダメな構造を、上司をチョロまかして、市場に流すための物ではありません。自分で「イケる!」と確信している物の製造許可を、上司に気分よく承認してもらうためのスキルです。

もっと言うと、仕事を早く進めるためのスキルとも言えます。現物の評価ほど正確かつ早い検証はありませんからね。

もしダークサイドスキルを使って作った、自信満々の一品がダメだった場合は、どうするのか?

その時こそ、正しいシミュレーションの出番です。闇のエンジニアリングを投げ捨て、製品をより良くするために良いシミュレーションを駆使して、改善を検討しましょう。

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