WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

筐体設計レイアウト検討入門

新しい製品を開発するにあたり、筐体設計部門が行うのがレイアウト検討です。

まず決められた予算の中、どういった性能で、どんなモジュールを載せて、こんな感じのサイズ感とデザインでやりたい、という企画があります。それに対して物理的に成り立つ配置や取り付け、組付け方を検討するのがレイアウト検討ですね。

そんなレイアウト検討、王道みたいなものがなくて業界や会社、部署、さらには人によってもやり方はバラバラです。見て盗めの世界です。自分も「こうやればいい!」と大言するほど言語化できるノウハウはないのですが、日ごろ意識していることをつらつら書いていきます。いち参考までに。

企画を理解する

モチベーション的な意味で。

作ろうとしている製品がどういう特徴を持っていて、その特徴がどういう購買層を狙っているのかは押さえておきましょう。「こんなキツイ思いをしてまで、何を作っているんだ?」とネガティブに沈みかけた時に、自分を支える背骨になります。

ちなみに経験からして、開発してる人から特徴と購買層がパっと出てこない企画はグダります。

各モジュールの設計制約をまとめる

CADを起動すると「まず置いてみよう」となりがちです。パズルしたい思いをグッとこらえ、最初にやるべきは配置するものの設計制約をまとめることです。

磁気センサーなら反応するまでの距離や許容できる位置のずれ、無線の送受信を行うアンテナなら周囲の金属物の禁止エリア、ねじ締結の最大ピッチ、などなど。きちんとしているところだと文書化されてまとめられてますが、そうでないところだと前任者へのヒアリングなど調査が必要になったりもします。

ここら辺は業界専門の知識、いわゆるドメイン知識が大きく効いてきますね。ずっと同じ業界にいる人は制約がすべて頭の中に入っているので検討がめちゃ早です。

どこでサイズが決まるのか把握し、解決する

設計制約をまとめたら各モジュールを配置していきます。

配置していくと、縦・横・奥行の3つの寸法で一番キツイ断面ができるはずです。製品の寸法がそこで決まってしまうわけで、小型化が必要な場合はその断面をどうにか解消する必要があります。配置を変える、取り付け方を変える、などの設計的アプローチや、部品の公差を厳しくする、治具組みで組み付け精度を上げる、などの製造的アプローチがあります。

この工夫が新しい製品を作るうえでのチャレンジであり、新しい製品を作る開発的な意義になります。

ラフでもいいので成り立つ形をCADで書く

サイズが決まる箇所は各寸法を厳しくチェックすべきですが、そこ以外はスピード重視でざっくり置いていった方が良いです。そして、固定や位置決めもラフでいいので形にしていくべきです。

大まかな構想だけしか描いていないと、詳細設計に入ったときに見落としが見つかります。形状を書いていれば、構想の解像度も上がり、見落としも減っていきます。

熱の流れを考える

高い演算能力を持つチップを使う製品だと放熱を考慮する必要があります。

放熱設計の良否は詳細設計に入ってから熱シミュレーションで確認するものですが、レイアウト検討時点でも「熱い部品と放熱部をどこにするか」の放熱思想と、そこをつなぐための放熱経路を考えておくべきです。ファンを使った空冷を考えているなら、吸気から排気までの空気の流れが発熱部をしっかり通るようデザインすることが重要です。

競合製品を見る

メカ屋は目にした構造の数だけ強くなります。

自社だけでなくて競合製品の構造やレイアウトも見ながら検討を行うと、良い設計に近づけます。検討に詰まったときに思わぬヒントが得られたりも。

リモートワーク中心になってから、物を見るっていうのが物理的に難しいのが最近の悩みですね...。

自分の意志を入れ込む

やらされ仕事はつまらんです。自分なりの目標や思いを入れ込むと良いでしょう。

筐体設計で目標にしやすいのが、小型化やコストですね。凄い人だと良いレイアウトにしてスペース・コストを抑制し、浮いたお金でモジュールをグレードアップさせる提案までもっていくこともあります。僕はそこまでやれないですが、安く作れる設計を毎度心がけてますね。安い=シンプル=問題が起こりにくい=楽できる!

何があってもめげない

レイアウト検討のフェーズでは色々なものが流動的です。

企画内容、スケジュール、開発体制...固定されたものはなく、すべてが変わり得ます。何が起きても折れないようフレキシブルに構えておきましょう。サラリーマンの悲しみ。

まとめ

レイアウト検討の際に意識していることを書いてみました。

設計段階でコストの80%は決まるとはよく言われますが、特に最初のレイアウトが重要です。部品配置がおかしいと、あとから頑張っても素性が良くはならないんですよね。発熱部品の配置がまずくてグラファイトシートベタ貼りして対応したり、固定思想が甘くて評価してるうちに中身がバキバキになって補強部品突っ込んだり、まぁいろいろです。

レイアウト検討は色々見るところがあり大変な一方で、設計者が好き勝手にできる楽しいフェーズでもあるんですよね。(適正なスケジュールと技術的ハードルであれば)

この記事を見て「俺はこういうの意識してるぞ!」みたいなのがあれば教えてもらえると幸いです。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com