WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

「メイカーとスタートアップのための量産入門」製造業を志す人にもバッチリ刺さる、広い知見のノウハウ集

「メイカーとスタートアップのための量産入門」は、趣味としてのモノづくりを超えて製品としてのモノづくりを始めよう、って人に向けた本です。

量産にまつわるプロセス、技術、金勘定、事務手続きに関する知見や、実体験に基づくノウハウに富んでおり、学びの多い一冊でした。
副題に「少量生産のすべて」とありますが、内容的には数十、数百万程度の量産にも十分使えます。Japanese Traditional Big Companyには、このあたりのプロセス・技術・用語の教育を全くしないままOJTの名のもと、当たって砕けろ的な働き方をさせるところもあるので、製造業の開発職を志望する学生や若手にもおすすめしておきたいですね。*1僕も若かりし頃、工場出張のまえに、こういう本を読んでおきたかったです。。。

量産までの全行程を網羅

量産のお話と言えば、ハードウェアハッカーでもエレキ・メカに関する知見が書かれていました。

temcee.hatenablog.com

ハードウェアハッカーは技術に関する驚きやレポートの色が濃かった一方、こちらの書籍はもっと広い範囲、アイデアから企画立案、発注、量産…と、量産までの全行程を網羅、紹介しています。教本の色が濃い、と言えます。範囲が広いゆえに詳細な内容まで突っ込めていないところもあり、事前に知識がないと分からないかもしれないなと感じる箇所もあります。そんなときは、本著に書かれたワードをもとにネットや専門家・経験者に聞いてみるといいかもしれません。この本の価値の1つは、量産の全てに触れており、量産へのステップを明確にイメージできることにあります。

出張立会の心得は極めて有用

合間に著者の失敗談もとい経験談が記載されており、量産経験者からすると「あるある」、これから量産を行おうという人には「気をつけよう」、ってことで幅広い人に有用な内容です。

中でもノウハウの塊と言えるのが、出張に関する内容ですね。これは学校では習えません。

出張前に行うこと、そして何より出張中に何をするべきか。ここは、経験が無い人は特に読み込んでおくといいです。事前知識と準備がないと、現地に行ってオロオロするだけで終わってしまいます。海外(中国)出張について工場内だけの話だけでなく、食事に関しても触れており、極めて有用です。

出張の意義について、軽く語ります。
ハードウェアというのは設計したとおりに出来上がりません。3Dデータはカッコよく出来ていても現物は歪み、寸法はハズレ、予想より脆かったり、うまく組み立てられなかったり…。製品知識も設計意図も知らない人が製造するわけで、トラブルはいろいろです。だからこそ出張して現場と作業者を見てトラブルに繋がりそうな工程を見極め、また担当者と意思疎通を行うことで製品仕様や問題点を共有して、協力して製造していく体制をつくることが重要です。

200万円の是非

本著に関して面白い書評を見ました。小ロットには小ロットなりの辛さ(特にコスト)がある。副題の「200万円、1500個から」が誤解を招き得る、と書かれています。

kunukunu.hatenablog.com

まさに、その通りだと思います。
工夫によりコストダウンを狙うことは出来ますが、一定のラインを超えると品質を犠牲にしないと成り立たないのが製造です。

本著に書かれている塗装を例にしましょう。塗装はお金がかかります。工程が追加されたり、塗料の代金がのったりもありますし、何より塗装を入れると歩留まりが下がるのです。

塗装時に起きる問題として異物巻き込み、ムラ、吹込み、塗料の密着不良…などなど、多くあります。塗料を適切に管理し、ブースもクリーンルーム仕様にして、自動機を使った塗装ですら、これだけ問題が起きるわけです。これを自分で大量にこなすと、品質に問題を抱えるだろうことがイメージできます。

製品として、その品質で許容できるか?
コストを渋るということは、これを多く問われることになります。

その点を考慮すると、200万という金額は心もとないです。

そして、人海戦術。自分も万に迫る個数のヒンジのカシメ調整を手作業で行った経験があります。端的に言って地獄です。量産して製品を売るなら、きちんとした額を払い、きちんとした工程を踏んで出荷する前提で行動するべきです。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

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*1:砕けたひとはいなくなります。