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【書評】「東芝解体 電機メーカーが消える日 」結局日本のメーカーの敗因って何なのさ

東芝をはじめ、日本の電機メーカーはグローバルビジネスにおける影響力を失っています。

日本の電機メーカーで時価総額トップなのはソニーで、6.7兆円ほどです。(2017年11月現在)アップルの1,000兆円は別格としても、サムスンが380兆円、フィリップスで180兆円規模です。いかに日本勢のプレゼンスが低いか考えさせられます。

かつては世界を席巻した日本の電機メーカーが何故没落してしまったか。電機メーカーの"失敗の本質"に迫ろうとしたのが本著、「東芝解体 電機メーカーが消える日」です。

これでは日本メーカーの失敗の本質には至らない

本を読んだ正直な感想です。厳しい経営が続く電機各社を責めていますが、攻撃する材料が根拠として弱いです。人間関係・会社関係から推測した(ゴシップ的な)内容が多く、具体的な数値データや関係者へのインタビューなどがありませんでした。タイトルも相まってスキャンダラスに事を騒ぎ立てるよう意図された著書のように感じます。

著者が日本メーカーの衰退原因としているのは以下の内容です。

  • 電電・電力ファミリー絡みで固定的な収入があり甘えが生じた
  • 事業内容が多岐に渡り「選択と集中」をしてこなかった
  • モノづくりという呪縛から脱せなかった

それぞれについて思うところがあるので書いていきます。

支援される企業は悪なのか

東電・NTTからの固定収入(本著では税と称されている)、これが元で自分たちで物を考えることをしなくなり、競争力が落ちたと結論付けられています。支援を受ける企業はすべて競争力を失うのでしょうか?

そんなことは無いでしょう。冒頭に時価総額で比較対象に挙げたサムスンは背後に韓国が付いており、その支援額は日本メーカーが受けるものとケタが違います。支援されながら、強い競争力を有している企業が身近に存在しているわけです。

本著でも半導体競争の項にてサムスンが官民複合で競争に勝ったことが触れられています。ここで日本メーカーの敗因を半官半民で半端だったとしています。それなら、より国を挙げた支援が必要だったと言えるのではないでしょうか。

分散はダメ、一本足もダメ?

本著では東芝以外のメーカーについても言及があり、シャープの章では液晶一本足で方針を絞ったことが傷を深めたと書かれています。

インテルを率いたアンディ氏の「パラノイアしか生き残れない」という言葉を引用し、電機各社が事業を拡大したことを批判した後に、上記内容が書かれているため、「じゃあ、どうすりゃいいんだ」となってしまいます。

どうにも、結果が見えている後世だからこそ言える「後だしジャンケン」感が強いです。

モノづくりは呪いではない

「モノづくり=人件費が安い発展途上国のビジネス」ではないです。

電機は儲からない、電機から脱却することが良策だという論調が繰り広げられています。それが本当ならアップルはiPhoneもMacも作らず、AmazonもKindle端末なんてやめてることでしょう。

ハードが主役ではないという意味なら、間違いないです。今や世界はソフト・サービスがメインです。でも魅力的な端末って価値はありますよね。iPhoneが売れた理由にはハードウェア単品に魅力があったことも起因しているでしょうし、そうして売れたiPhoneがアップルストアのプラットフォームを拡大するのに大きく貢献してきました。

つまり、電機を利用してビジネスを拡大する道だってあったわけです。そこを深く分析できれば、今後の企業経営に役立つ知見も得られたでしょう。ソニーが何故プラットフォーマーになり切れていないのか?個人的に気になるところです。

まとめ

本著を読んで僕は怒りを覚えました。理由は2つ。1つは僕が中の人だったこと、もう1つは著者から謙虚さやリスペクトを感じられなかったこと。

前者について。必死に考え作ってきたものを「胡坐をかいていた」と称されて、いい気がするわけないです。必死だった、しかし道が間違っていた。それは何故?どうすれば避けられる?その答えを探さず、表面的な内容で叩かれてはたまったものではないです。

後者について。批判者は謙虚たるべきでしょう。本著が参考にした「失敗の本質」では、後世から分析をすることでの「後だしジャンケン」感について認めていますし、多角的な視点から分析を行うことで公正な視点で問題の本質に迫ろうとする謙虚さが見えます。本著にはそれが無いです。批判者特有の、正義を振りかざしている印象すら受けました。

1つ勉強になったことがあるとすれば、電力・電電ファミリーの関係性ですかね。僕はそのあたり疎かったので、そこの知識を補完できた点だけは読んだかいがあったかと思います。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

日本的失敗を分析するならこっちの方がおすすめです。