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【書評】『「設計力」を支えるデザインレビューの実際』効果的なDRを目指して…

デザインレビュー(以下、DR)という言葉をご存知でしょうか。
担当者が行った設計に対して、大勢集まって検討の抜け漏れを議論する会議のことをDRといいます。

製品開発おいてDRはどの会社でもプロセスに組み込まれているかと思います、ただしその手法については千差万別です。 やり方が各社・各部署で違うのは作っている物によって注視すべきところが違うのもあるでしょうし、何より「効果的なDR手法」が確立されておらず、どこも手探りで続けている状態からなのかなと思います。

個人的に、会社のDRのやり方は疑問に思うこともあり、「DRってどうやるのが正しいのか?」と常日頃から悩んでおり、書店で見つけた本著に自然と手が伸びました。

著者は車載装置の開発者

著者はデンソーで車載の開発を長年やられてきた方のようですね。

車は一般ユーズの機器では最も過酷な環境(寒冷地から熱帯までカバー、砂塵や水にも晒される)で使われ、品質不具合には人命すら関わってきます。だからこそ設計はもとより、プロセスでも不具合を潰しこむよう開発イベントにも頭を使っているものと考えられます。個人のスキルに依存しないプロセスを整えるのは、製品開発において正しい姿勢ですね。

DRでのあるべき姿勢

本著では、DRは議論・検討の場であって審議・承認の場ではないと指摘しています。つまり上位職制の人が集まって設計者の資料に対してチクチク指摘するのはDRのあるべき姿ではないということです。

技術的・顧客使用的な深い議論をするには、製造や材料、過去トラブルなど多岐に渡る専門分野それぞれに精通する専門家を集める必要があります。かつ自由闊達な議論が行える雰囲気を作り、設計者が十分に設計検討したアウトプットを元に抜け漏れが無いかを確認していく必要があります。

で、上記の要素が揃ったところで、DRをどう進めていくべきか、具体的な資料や議論の内容を交えながら、本著で紹介がなされています。たぶん、デンソーの開発プロセスもこんな感じなんだろうなー、なんて思いながら興味深く読ませていただきました。

フェーズごとに目的が明確なDR、すべての根拠を数値で語る資料など、「これをきちんとやり切れば理想のDRだな」と思わされる内容の数々。自分の仕事でもこのレベルのDRが出来れば…と思いますが、難しいでしょうね。

電機製品と車載製品の開発における違い

僕が属する電機業界が、本著で書かれているレベルのDRをこなすには、下記2点の違いがハードルになってきます。

  1. 開発スパン
  2. BtoCとBtoB

前者について。
車載製品は数年のスパンで開発される一方で、電機製品は製品企画から量産まで1年程度のものがほとんどです。ちなみに、僕が体験した最短日程だと5か月程度で世に出たものもあります。

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こうした短期開発では数多くのイベントを経ることも、そのための出来がいい資料を揃えることも困難です。抜け・漏れなく完璧にやり切るよりも、クリティカルなところを早期で見抜き、手戻りの無いタイミングで修正することこそ必要になります。

電機の開発は概ねそんなスタンスなので、僕が経験してきたDRは設計途上の段階で行われ、無駄な指摘(設計者が既に認識して検討中の問題)をはらんでいきながらも、クリティカルな指摘を求めて行われていきます。本当は、この本で書かれているように設計検討が完全に終わってから行うことが出来れば理想なんですがね。

後者について。
僕がやってるのはBtoC開発です。BtoBと比べて何がキツイかというと、要求仕様が無いから自分たちでイチから考えないといけないんですよね。評価方法も、「エンドユーザーがどう使うか」「どうすれば、それを再現できるか」というレベルで考えなければいけません。

設計は全て数値で語るべし。本著で語られている内容です。もっともな事だし、僕も設計とはそうあるべきだと思います。ただ、難しい。

例えばボタンの感触に関する項目があるとしましょう。ボタンの感触をどう定義するか?荷重の重さやストロークの深さ。クリック感の鋭さに音の大きさ。分解していけば感触1つを表すのに多くの項目が絡んできます。それぞれについて、自分たちの想定するターゲットについて何が最適なのかを調査、考察していく必要があります。これは誰かに聞いて答えがあるものではなく、フィーリングのところで、定量的に示しにくいものでもあります。

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まとめ

車載製品はハードな環境と品質不良がもたらす結果の重さから、何重かつ緻密なプロセスで設計品質を上げようとしています。この姿勢は見習うべきでしょう。

DRの中には、イベントを消化するためだけに行われている例もあり、そうなると何のために行っているか良く分かりません。必要なのは専門性を持った人が参加すること、議論をすること、それにより設計者の想定外の指摘を挙げることです。電機のプロセスでもそのあたりをきっちりやるにはどういう手法を取ればいいか、「完璧なDR」を考え続けるのは設計者にとって必要な姿勢でしょうね。