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特許の出願数は開発力を意味しない

年度末恒例のごたごたに便乗する形で僕のアイデアが特許出願まで漕ぎ着けられそうです。転職の際に前職での特許出願数をアピール点の1つとしていたので、ひとまず口だけにならずにほっと一息です。

発明に関してこんなニュースを見かけました。

発明者への報酬を改善する取り組みの紹介ですね。記事では主にAIやIoT関連の発明を頑張れ、と言ってます。発明する側にいる僕としてはお金が沢山貰えるようになるのは嬉しいので、発明者への待遇が改善することは当然ウェルカムです。

ただ、これらの施策が企業の業績にどれだけ役に立つのか、という点では眉唾ものです。

特許数が多い日本の電機企業の現状は…

下記は2015年の国際特許出願数のランキングです。1位はやはりアメリカですが、日本も2位につけています。続いて中国・ドイツ・韓国と製造が強い国が続きますね。このデータは2015年のものなので最新のものだと多少の上下はあるかもしれません。しかし日本の特許取得に対する意欲は世界でも有数の水準にあると言えます。その割に日本発のイノベーションというのは起きていない気もしますが。 

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(引用元:世界の国際特許出願件数 国別ランキング・推移 - Global Note)

もう少しつっこんで電気機械・機器についてのランキングを見てみましょう。

この分野では日本は一番です。また、この分野に近しいAV機器についても日本の出願件数はトップです。

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(引用元:世界の国際特許出願件数 国別ランキング・推移 - Global Note)

それにもかかわらず、日本の電機産業はあまり元気がありません。かつては大手と言われる電機メーカーは多数ありましたが、今では多くの分野で海外のメーカー(主に韓国・中国)に遅れをとっています。この事からも特許の数が単純に企業業績に跳ね返るものではないというのが分かっていただけるかと思います。

電機の分野について言うと価格競争の面で太刀打ちできていないことが大きいでしょう。そのコスト競争に勝てない要因は人件費に、設備投資の差、そしてもしかすると特許になってない秘匿技術として、製造コストを安くおさえる製造ノウハウが蓄積されているのかもしれませんね。かつてカイゼンと呼ばれ日本の製造業の強さとして取り上げられたボトムアップの効率化は、今では東南アジアの工場の方が盛んだと耳にしたことがあります。

特許出願数は開発力ではなくスタンスを示す

特許は業績に直結しません。では出願件数が表すものはなんなんでしょうか?強い開発力・研究力というもののアピールに使われているイメージがありますが…。

日本国内の出願件数ランキングを見てみましょう、こちらは2017年版です。前年のデータもあるので、そちらの方が偏りがなくていいデータかも知れませんね。

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(引用元:2017年 特許ランキング - 知財ポータルサイト『IP Force』)

前年順位を見ると大体同じような顔ぶれが揃ってるようです。それだけ研究開発が盛んなんでしょうか。

今度は企業が研究開発にかける費用を見てみましょう。

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(引用元:初公開!「研究開発費が大きい」トップ300社 | 企業ランキング | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準)

ホンダ、日産、ソニーなど出願数のランキングにはいない企業が出てきますね。これらの企業はお金をかけてもアウトプットを出せない社員がたくさんいるということでしょうか?その可能性はなきにしもあらずですが、同じような分野で競走を繰り広げている各社に、社員のレベルに大きな開きがあるというのは考えにくいです。会社が出願に対して慎重な態度をとっていると考える方が自然でしょう。

特許大量生産型の会社

ランキング1位のキヤノンは僕が就活してた頃の情報では開発職に1人1件の特許ノルマがあるとの事でした。今はどうなのか知る由もなしですが、特許に貪欲な姿勢はランキングによく表れています。

未来は予測できません。どんな発明がどういう形で役に立つかなんてものは蓋を開けてみなければ分からないという考え方はあるでしょう。他の企業とクロスライセンスを結ぶ際に塵も積もればということで有力な発明とのトレードにも利用できる可能性があります。そんなわけで、質よりも量で勝負するという企業の考えは分からない訳ではありません。カードゲームも手札が多い方が有利ですからね。

ただし特許戦争において手札は有料です、発明を登録するには相応の費用が必要となります。そしてノルマにより半ば強引に権利化された発明は大した事が無いものが多いというのが僕の観測範囲内での経験則です。

この種の会社での特許出願方法

コーヒーブレイクです。

製品を開発する人にとって、特許を大量生産する企業で特許出願まで漕ぎ着けるのはそう難しい事ではありません。新しい製品を作る場合、当たり前ですが前の製品よりも改良されたものを作ります。その改良のために工夫した点、頑張った点、こういった所が特許のアイデアとなります。

特許大量生産系の会社は個人なり部署なりに特許ノルマが課されている場合が多く、また製品が発売されると出願できなくなるという時間制限もあり、製品適用のアイデアを元に特許を牛耳っている部署とネゴればなんだかんだで出願させてくれるパターンが多いです。僕が出願したものも、そういったアイデアのものが多分にあります。自分で言うのもなんですが、あの発明たちは何の役にも立ってないだろうなぁ…。

特許戦略重視の会社

閑話休題。質より量の会社があれば、量より質の会社もあります。

「容易に真似ができる」「発明により競争力が上がる」「発明が影響を及ぼす相手が大きい」といった要素 がある特許は強いです。真似が出来ない技術ならわざわざ特許にして公表する必要も無いし、競争力が上がらない発明に価値はなく、小規模な会社にしか影響しないなら得られる利益が小さく工数の無駄になるだけです。

事前にそういった内容を吟味し、厳選した発明だけを出願する。個人的にはこちらのタイプの方がビジネスとして真っ当かと考えています。特許は登録まで漕ぎ着けるだけでも数十万のお金がかかるものです。この他にも弁理士さんの費用や、自身の工数もかかります。明らかに役に立たないような案件を出願する事は時間も費用も無駄ではないでしょうか。

ただし先に述べたように未来は予測できません。見込みアリの特許が活躍しない可能性もありますし、見込み無しとして社内にてふるいにかけられた案件が有力な特許になり得たというリスクは付いて回ります。

就職するならどっちのタイプ?

どっちのタイプもビジネスを考えると一長一短な所はありますが、特許を出願する側で働く場合は大量生産型の会社の方が都合がいいかと思います。理由は2つ。単純に報奨金がおいしいですし、特許出願数は転職する際にアピールする項目の1つとなります。

特許の出願は日本のエンジニアにとって数少ない利点の1つだと思ってます。なかなか給料が伸びない世知辛い世の中ですが、報奨金で少しはお小遣い増やしていきたいものです。