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寸抜けする図面寸法は振らなくてもいいのではないか

使い古された工作機械
寸抜け、図面で寸法を入れ忘れることですね。検図で注意される項目No.1ではないでしょうか。

寸法を入れるなんて簡単じゃないか、と思われるかもしれません。ただ想像して頂きたいのですが、大物の樹脂部品ともなると1つの部品に100を超える寸法を入れる必要があります。断面も複数切る必要がありますし、角Rや注記、塗装・印刷の情報も記載していくわけです。図面1枚作るのにも結構な工数がかかるわけで、その中で優先度が低い形状の寸法が抜けてしまう、というのは珍しいことではありません。

で、そんな優先度が低くて、抜けてしまうような寸法なら最初から入れてなくてもいいのでは、と思うんですよね。

前提条件として

全寸法必要ないのでは?という意見の対象は樹脂部品です。

切削やプレスで作る部品は寸法の入れ方で工程が変わってくるので、設計と製造の認識違いを防ぐ意味で寸法が必要かなと思います。樹脂部品については、加工は3Dデータを元に加工データが作られるはずで、図面の重要寸法が加工工程に影響は与えないという認識です。

例を言えば、「ここの位置決めピンの寸法が重要だ」と図面に描いている場合、切削やプレスなら「寸法を出すために同一工程で加工しよう」と製造方法に影響が出ますが、射出成形だと3Dの設計値(ズレ無し)から収縮率を考慮したデータにして金型を掘るだけで、あとは出来上がりを見て金型や成形条件を修正していくことになるかと思います。

優先度が低い形状とは

射出成形の部品において優先度が低い条件とは何でしょう。僕が「寸法いらないな」と思っているのは以下のような形状です。

  • 製造都合の形状→肉盗み・インサート保持用の形状・金型強度確保の形状・加工R
  • 本質とは関係ない寸法→樹脂流動性改善リブの寸法・補強リブの幅寸法

これらの寸法は設計として必要な形状ではないですし、寸法が多少甘くなっていたとしても特に問題ないです。例え寸法を入れていたとしても、その寸法が測定されるのは各トライ(試作)ごとに1,2台測定するくらいで、入れる労力のわりに使われる頻度が低いんですよね。

大切なのは測定基準

究極的には測定基準と重要寸法さえあれば、他の寸法はDXF参照でも成り立つのではと思っています。さすがにそれだとメーカー側の工数負担が大きいし怒られるのでやりませんが、検図で寸抜けを細かく探すよりも測定基準と重要寸法の測定に知恵と時間を使った方が効率面でリターンが大きいと思います。

測定基準が曖昧になっていることって観測範囲内では結構多いんですよね。

例えば、ラップトップの樹脂フレームなんかは最外形の中心線から寸法を追うことが多いですが、中心線をどう定義するかって視点が欠けている図面を結構見てきました。樹脂フレームみたいなヘロヘロな樹脂部品は成形で作ると、まず間違いなく反りが発生します。なので測るところによって中心位置自体がバラ付くわけです。なので、中心線を作るための測定点を規定したり、測定時に冶具を使って矯正するか?みたいな定義が無いときちんとした測定が出来なくなるのです。

反りの量も図面に規定していますが、これも定盤(じょうばん:平面の基準となる水平な台)に乗せて測るのか、相手部品と組み合わせた状態で測るのかによって値が変わってきます。実際に設計者としてみたい反りは、どの状態の反りでしょう?そういったことを意識すると図面を描く意義も見出せますし、設計自体への理解も深まることでしょう。

まとめ

全部の寸法を血眼になって振らなくてもいいのではないか、というお話をしました。

図面寸法をどこまで振るのかって、自分のキャリアでも結構紆余曲折があるところで、一時期はほとんど寸法を入れてない時期があったり、それで問題が起きて全部入れましょうとなったり、まぁいろいろです。

設計において、自分は入れられる形状は起工前に入れ込んでおく、樹脂の流動性が悪そうだったらCつけてリブで繋げて~とか、ボス周囲にスペースがあるなら補強リブも入れておいて~とか、必ずしも必要ではないかもしれない形状を入れておくスタイルです。後から追加するとお金と時間かかりますから。

それらの形状って「この寸法じゃないとダメ」っていう理屈がなくて、寸法入れて縛りを追加することに違和感を覚えるんですよね。緩和公差で入れてあげればいいんですが、いちいち公差を弄るのも時間がかかります。

どうしてもモノづくりは2Dが正って文化が強くて、優先度が低いところは大雑把公差で寸法は3Dデータ参照、みたいなのが出来ないんですよね。設計の工数しか考えてないと言われればそうなのですが、製図の負荷って結構馬鹿にならなくて、大物だと1部品描くのに数日かかって、そこから検図やり取りも数日。それが何十部品もある小物部品の製図と同時進行…となるとキツイんですよね。なので本質と関係ないところは極力省力化したいのです。

図面については自動車側が進んでるらしくて、3D図面なんて取り組みを進めているそうです。このあたり、自分は全然しらないので、時間つくって調べてみたい分野ではあります。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com
非設計者・初学者向け。図面はなんで必要なの?という疑問へ僕なりの回答です。

temcee.hatenablog.com
図面描いてても、それをきちんと守ってくれるかは別の話。海外行くと特に…ですね。