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機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

小林化工の「普通は起こらない」ミスはどこでも普通に起きている

イトラコナゾール錠に睡眠薬が混入されていた件で、なぜなぜ分析した記事を拝見しました。

www.sankei.com

事故に至るまでに4つのミスが重なっており、「普通ではない」「ずさんだ」といった反応が多く見られました。

確かに小林化工の製造工程・品質管理はずさんです。が、小林化工だけが特別にずさんで、他の工場は完璧なのでしょうか?

大事故の要因は「普通は起こらない」ミス

著書「最悪の事故が起こるまで人は何をしているか」には、本事例によく似た(それでいて遥かに規模の大きな)事故のなぜなぜ分析が多く紹介されていました。

低品質のリベット及びリベットの間引きが要因とも言われるタイタニック号の沈没。
ブースター接合部をシールするOリングが低温環境下での弾性性能に懸念があるとの忠告を無視した結果起きたチャレンジャー号爆発事故。
オペレーターへの教育と緊急マニュアルの不備が招いた洋上石油掘削装置・オーシャンレンジャーの沈没事故、など。

どうです?どの事故要因もずさんですよね。上述の要因に至るまでには、日程面への圧力、怠慢、判断ミス(おもに疲労による)が絡んできます。けしからんことです。

これらは過去の事故で、現代は過去の教訓をもとに質の高い運営がなされているはずだ!と言う人もいるでしょう。ただ現在の製造業界の工場が規律に基づき完璧な管理ができているかというと、自分が見てきた限りはそんなことはありません。

現実のお仕事は割とずさん

ランチタイムに仕掛り品を適当に放置して劣化した部品を出す、タクトタイム短縮のため製造環境・工程を連絡なく変える、日常茶飯事とまでは言いませんが自分の短い開発人生で幾度も経験しています。コンピュータ管理だって、現場がその気になれば抜け道があるものです。現場が開発・工程設計側の意図を把握してない場合、効率化の名の元に、現場外から見ると普通ではないと思われる行動が、度々現場では起こり得ます。

製造現場だけに限りません。開発側だってちょっとしたバグを放置したり、指摘されている問題に対して理屈をこね回して回避しようとしたり、面倒だからと口頭の取り決めを文書にきちんと残していなかったり。改めた正しいかを問われると回答に困る対応をとっていることもあります。

普通は起こらないミスは、至るところにあるものです。

それが爆発してないのは、過去の教訓から学んで事故を防ぐためのゲートを増やしていること(今回の件も見方変えると4つのゲートがあった)。自分の仕事を崇高なものにするため日頃から努力している人たちのおかげです。ですがそれでも、長期間のうちに不幸にもミスが重なった時や、何かしら状況が悪くなって余裕が無くなった時に、普通は起こらないミスによる事故が明るみになってしまうものです。

それでは、今回の事件を受けて我々はどういう態度を取るでしょうか。

ずさんだと責めること?うちはコンピュータ管理で完璧にやっていると安心すること?

いやいや、それは危険な思考です。取るべき態度とは、ちょっとしたミスが大事に繫がるとの教訓を得て、日常うまくいってるからと無視しがちな小さなミスに配慮することでしょう。

仕事、特に大切なことは面倒なことばかりです。こんな面倒くさいことは間違っていると言いたくなることもあります。一方、面倒くさいことをさせるには、それなりの理由もあるものです。

そういったことを再認識して、自分の仕事で不幸になる人が出ないように日々の業務に向かわないとなー、って思う今日このごろです。


↑の本、大事故のみならず未然に防げた話だったり、それらの教訓から得られた危機を救うために取るべき行動などが書かれています。警告メモだけ渡して自分だけスッキリしちゃ意味ないよとか、急所を突く痛めのことも書かれており、ただしい行動をせよとケツを叩かれた心持ちになれます。やっぱ口より手と足なんだよなぁ。