WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

設計者はどこまで現場に踏み込むべきか

仕事の丸投げに関する記事を読んで

ハードウェア設計も見方によっては丸投げ仕事です。設計者が作った3Dデータをベンダーに投げて、後はベンダー側で金型設計するなりプラスアルファの処理を入れるなりで、仕様書たる図面のスペックに沿ったモノが出来上がってくる。が、理想的なお仕事パターンですね。丸投げで終わりです。

問題は図面に沿ったモノが出来上がらなかったり、極端に歩留まりが悪くてマネー要求されたりする時です。ここで取られるスタイルは2通り。

「この仕様で仕事受けたんだから自分たちで何とかしろ」の完全丸投げスタイルと、「俺たちが何とかしてやるから現場に入れさせろ、言う通りにせよ」のガン受けスタイルです。どちらのスタイルを取るかは、会社・部署などの環境によりけりです。

ガン受けする問題点

ガン受け、仕事への責任持っている感じがしますし、現場に踏み込むことで製造側への知見も広がりますし、良い事だらけに見えますよね。一方、別会社たるベンダーに「現場に入れさせろ」というと、抵抗するところもあります。製造工程は秘匿すべき技術なので、外部の人に見せたくないわけです。

刀工の正宗には焼入れ時の湯の温度を調べようとした弟子の手を切り落とした逸話があります。焼入れの湯の温度が刀を製造する上で如何に需要なノウハウであったかが分かりますね。こういったノウハウは一旦盗まれて転用されると、盗用技術と証明することが困難です。

ここで言う湯の温度が、現代のプレス屋におけるスケルトンだったり、成形屋におけるソリ矯正方法だったり、Assy工程屋における治具だったりするわけです。外部の人を現場に入れるってことは、それら秘匿ノウハウを晒すこと、別の会社に流されて転用されるリスクを追うことになります。

「言う通りにせよ」という点も必ずしもうまくいきません。設計者がやり取りしている、ベンダーの窓口対応している人とは現場に踏み込むことで合意が取れていても、現場の人がウェルカムな態度とは限りません。

現場は部品品質があがっても、歩留まりが改善しても給料が上がるわけでもなく、仕事の手順が変わったり増えたりして面倒なのが嫌だったりするわけです。そうした中でいくら設計者が頑張っても、結局なんやかんや理由をつけられ、改善品も適当に作られてでうまく行かないこともあります。みんながみんな仕事に真摯なわけではないです、特に国が変わると、ね。

後は何より、責任の所在があやふやになるのですよね。風の噂では、現場に入りすぎた結果、派手な喧嘩になったプロジェクトもあったとか。

情報の透明性、ひいては信頼

うまく作れる荒れる部品、ほっといてもきっちりできてくる部品、その違いはどこからくるのか。

技術の良し悪しも有るのですが、肝になってくるのは情報の透明性かなと思います。

不味い事態が起きた時に素直に現象と対応を報告してくれ、またこちらの提案にもキッチリ動いてくれるベンダーは最終的にいい感じのモノを仕上げてくれます。一方、事態の報告をせず自分たちがブラックボックスで色々やった結果、マジかよってモノを仕上げてくるベンダーもあります。で、問題が片付かないから設計者も随所から圧力を受けて情報を得るために現場に近づこうとするし、ブラックボックスを解き放ちたくないベンダー側は抵抗して、と。

こうなってくると担当者間の信頼も無くなってきますし、ひいては会社間の信頼も失われていきます。信頼できない者同士が仕事をすると、関係するみんなが疲弊していきます。闇。

まとめ

まぁフィクションなわけですよ、この話は。

丸投げして、それで仕事が回れば本当に理想ですね。かく有りたい。

けど現実は残酷で代を追うごとにお金やスペック起因で製造マージン削られていくハードウェア業界で楽にこなせる仕事なんてありゃしないわけです。

個人的には責任の所在があやふやになるのが嫌で、仕様どおりに勝手にきちんと仕上げてよと思っています。思っていますが、そうやって丸投げしているところは滅んでいる現実もあるわけで。設計者はある程度現場に踏み込まないといけないのでしょうね。上で挙げたように色々な障害があって、技術を高めるとかスキルが広がるとかのキレイな世界ではなく、泥にまみれインファイトでガチガチやるアレな感じなのですが、それがモノづくりです。

戦わなければ生き残れない。