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3D-CADを使わない設計は悪いのか?

先日、日本における3D-CAD普及率の話がTwitterに流れてきて、思うところあったのでブログにて吐き出したく。

このデータの元ネタは経済産業省の2020年版ものづくり白書、第1章3節「製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」にあります。

ものづくり白書の主張

  • 1990年代以降、設計・製造・解析データを一体とした「バーチャル・エンジニアリング」の環境が整備された
  • バーチャル・エンジニアリングの進化で製造開発部隊を超え企画・営業・サプライヤも製品開発に協業できるようになった
  • バーチャル・エンジニアリングにより開発リードタイムを極限まで短縮、不測の事態にも対応できるようになる
  • しかし日本では2D図面が強く3D図(3Dデータに図面情報を付与したもの)が普及していない
  • それどころか3D-CAD自体の普及が遅れている

ということで、バーチャル・エンジニアリングの第一歩たる3D-CADの普及が、わが国製造業のアキレス腱になるかも?と〆ています。

3Dと2Dを併用して使う設計者の存在

僕自身は下記の図でいうと3Dデータでの設計をしている人に入ります。

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とはいえ、設計初期段階は3Dのボディを書くのではなく2Dたる線、いわゆるスケッチを使って検討します。これは何故なら設計していて急所になる箇所は概ね2Dの断面で描写可能であり、3Dで検討しているとデータが重く変更に対して柔軟性に欠くからです。3Dと2Dを併用する人は自分に限らず、というのがこのデータからもとって見えますね。

3Dじゃなきゃダメなの?

最終的に3Dで詳細設計していくのは製造的な都合があります。成形品用の金型データに使う、とか。設計観点でいうと、3Dで詰めていくことで3次元的に設計の解決策が見つけられることと、干渉チェックやCAE用モデルに使うなど3Dならではの利点があるからです。3D-CADは確かに開発の手戻りを無くしリードタイム短縮に役立っています。

ただすべての業態で3Dならではの利点が必ずしも必要かというと、そうでもないと思っています。僕が上記機能を用いているのは、出来るだけ内部を詰めてカタログスペックを0.01でも小さくしたいとか軽くしたい事情があって無理をしないといけないからで、必ずしもそんな無茶をしないといけない業界ばかりではないでしょう。

そういう視点で見ると2Dで十分に設計可能で、かつ2Dを使った方が早く何より安く設計できるケースもあるのではないでしょうか。3D-CAD、下手なものだとライセンス1本で100万以上しますしね。

3D図はハードル高いよね

白書のなかでCADと並んで言及されているのが3D図です。単純に図面が未だに強すぎるデータがあるのと、2016から2018にかけて2D図への回帰が見られていることから、3D-CADより状況は厳しそうです。

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これは、製造機能を外に委託している場合はサプライヤーの投資が必要になってくるのが重たいと思っています。3D-CADだけなら内部に適用すればいいのですが、他社に投資してもらうためには明確な利点を説明できなければいけない。また3D図は僕の知っている限りは決まった形式のようなものがなく、一から協業して形式を整えていく必要があるのかなと思っています。

ただ現状、製造以降の工程で3D図を用いる利点は薄く、それゆえにうまく普及させられてないと思っています。3D図ならではの体験価値を提供できる仕組みをまだ誰も見つけられてないのかなと。

Twitterでフォローさせていただいている方にも、同じ意見を見かけました。

そう、他にやった方がいいこといっぱいあるんですよね。ホント。。。

一方、3D図はある意味ブルーオーシャンなわけで、製造以降の工程に嬉しい体験を提供できれば、次の製造業の世界をリードする存在になれるかもしれないですね。

まとめ~誰が為の3D-CAD

3D-CADや3D図が普及しきらない点について思うところを述べてみました。僕個人としては新しいツール、仕組みは好きなので3D-CADも3D図もやってみようかと思えますが、必ずしも3Dを使うことが合理的ではない世界もあるわけです。まぁ、イノベーションのジレンマですか。

ちなみに3D-CADがあるだろ!ってことで日々開発リードを削られている僕からすると、3D-CADの恩恵を一番受けているのは製品企画部隊と思っています。

設計部隊は技術の進歩手が早くなり検証スパンは短くなったものの「課題をどう解決する?」を考える頭の数は変わらない一方、課題数は単純に増えてます。つまり設計者は死ぬ。以上です。

temcee.hatenablog.com

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3D-CADを普及させたいなら設計者全てに高スぺPCを配布していただきたく。