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「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」僕らは農奴として生きるのか

最近、日本企業からの転職先として人気のGAFA(Google, Apple, facebook, amazon)
いわずとしれたテクノロジー業界の雄であり、彼らの製品やサービスは我々の生活をより便利に豊かなものにしました。

その一方、多くの雇用を消滅させて集めた利益をより少数の者で分配し、プライベートな領域の情報をせっせと集めてビジネスに利用するなど(これを中華企業が大っぴらにやると大ヒンシュクだろう)、マイナスの面も持ち合わせています。

そんなGAFAを、「地上の人間を殺す権威」を与えられたヨハネの黙示録の四騎士と重ね合わせ、どのようにその地位を築き上げたかを分析したのが本著、「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」です。

お堅くなりがちなビジネスのお話をフランクに、ユーモアを交えながら分析していて大変面白く読み進められました。「GAFA外」の庶民大勢に向けた内容で、GAFAやその創設者・経営者たちに皮肉や批判的なところが度々あり、GAFAの一部にでも不審な思いを抱いている人には刺さるのではないかと思います。

ちなみに、著内では圧倒的な存在のように語られるGAFAですが、現在の時価総額的にはMicrosoftが一番で、facebookに至ってはバフェット氏率いるバークシャーハザウェイやテンセントよりも下に位置しています。日本勢の最高、Toyotaの1656億ドルというのを考えると確かに凄いのですが、圧倒的に世界を支配しているかというと、それほど独占的な地位というわけでもないかな。

世界時価総額ランキング
(引用元:CorporateInformation.com - Top 100 Global Corporations ranked by Current Market Capitalization (U.S.$ millions))

章ごとに書いてあること

・1章
GAFAの紹介、本書の構成、GAFAを知ることの重要性

・2-5章
GAFAの歴史、戦略、強みの分析をそれぞれ章ごとに分けて紹介

・6-8章
GAFAに共通する強みや戦略、成り上がり方法

・9-11章
ポストGAFAとなりうる企業、今後の世界で個人の生き残り方

得たものと、代償

GAFAは僕らの本能にアピールする武器を持っており、本能を満たすために僕たちはよろこんで彼らに金やデータを提供しています。

その結果としてGAFAがより偉大になり、プラットフォームを強烈に支配されることで僕ら(とその勤め先)はGAFAと競合することを避けるようになる。

そして困ったことに、テクノロジー業界というのは勝者総取りの業界であり、2番手以降は大きく引き離され破壊されます。テック業界は製造業と比べて社員数も少ないので、結果として総取りした多くの富が少数の社員に分配されることになります。ビリオネアになりやすくミリオネアになりにくい、とはこのためですね。

本著ではGAFAの、労働界に与える悪影響について多く言及しています。amazonの作業者しかり、ウーバーのドライバーしかり。

書の最後の方に、「少数の支配者と多数の濃度が生きる世界」という表現があります。今の状況が加速していくと、確かにたどり着く先はそんなディストピアなのかもしれません。

GAFAは何がために発展する?

GAFAが各種のテクノロジーに投資し、ライバルとも言えない他の企業を駆逐してまで達成したい目的とは何なのでしょう。

本著では金儲けとしていますが、それは著者の思いにすぎないかと思います。本当のところは創業者に聞いてみなければわかりません。

実現したい世界があるのか、自分や会社の名を後世まで残したいのか。はたまた自分の限界を試してみたいのか。

一般人たる僕には想像がつかないスケールの話なのかもしれないし、意外と根っこは俗っぽいかもしれません。ただ、これほど会社を大きくするためのモチベーションは何なのか、おおいに興味をくすぐられます。

上記にあるようなディストピアを目指しているわけではないと、思いたいですね。

偉大な企業もいつか廃れる

プラットフォームを支配し圧倒的に見えるGAFAですが、著者は未来永劫も絶頂を維持できるとは考えていません。企業にも人のように寿命があり、いつかは廃れるということです。

10年ほど昔にさかのぼれば、圧倒的な企業といえばMicrosoftでした。もちろん今も、冒頭にあげた時価総額ランキングから分かるように偉大な企業です。しかしかつて公私ともに世界のコンピュータを支配していたはずが、PC→スマホのプラットフォーム交代に対応しきれず、個人向けのプレゼンスを大きく落としています。同様のことは、GAFAにも起こりうるのです。

Appleは「高級ブランド」としてテックとは違う立ち位置を得たので長生きする可能性がある、と述べられています。確かにAppleはイカしたものとしてアピール力があります。ただAppleの高級なイメージにはやはり先進的のイメージありきで、その点でテック業界のくくりからは逃れられないのでは、とも思います。

ソフトの世界とハードの世界

ここからは本を読んで僕が考えさせられた内容になります。

GAFA、確かにハード的なものを作っていますが、柱となるのはサービス・デザイン・アルゴリズム…つまるところソフトウェアです。近年はソフトの時代と言ってもいいくらい、ソフトがフィーチャーされる時代だと思います。その一方で、ハードは置き去りにされてきたのでは、と。ここに強烈な偏りが発生しています。

その偏りの受け皿となっていたのが中国で、世界の工場としてハードウェアの技術を伸ばしてきました。知の共有の点で米国とは違う価値観の元、独自の生態系も出来上がっています。

ソフトのアメリカ、ハードの中国。最近は政治的にぶつかりあっている両者ですが、この仲たがいが深刻化するとよりダメージを受けるのはどちらでしょうか。

僕はハード屋で、人間はまだ物質の世界に生きているので、ハードの根幹的なところをおろそかにしているアメリカの栄華は、結構あぶないのではと思っています。技術的にもそうですし、ハードという、大きな雇用を生む業界を軽視したことで、国内の不満の総数も高まっていることも理由として挙げられます。

日本はソフトの理解という点で遅れているとよく言われますが、製造業を伸ばし、育て上げてきたのは国民の幸福総量を考えると悪い選択でもなかったのかなと思ったり。(そんな製造業も、自動運転とかでソフトの力が入ってくるとGAFAとかち合いになるわけですが。。)

まとめ

なんか思うことがいろいろあふれてまとまらなくなってきました。

それだけGAFAの戦略や、存在自体に考えさせられるところが多かったです。あと単純に著者(もしくは訳者)の言葉遣いがうまくて、リズム良く楽しげな文章は非情に読みやすいです。ブログとは言え文章を書いているものとして憧れを感じます。

GAFAは確かに圧倒的に見えますし、その出自は勉強になります。そしてなにより、単純に面白い。

そんなわけで、実家でやることなくこたつに入っている間、ちょいと読む本としては大変オススメです。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com
製造業をどう改善していくか、の物語。読み物としても面白いですよ。

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ホモデウス読みたい…(読めてない)