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【書評】「2030 半導体の地政学」半導体は産業のコメ、からのアップデート

半導体は産業のコメ、と習ったのは小学生のころだったか。当時は何とも思っていなかったものの20年以上の時を経て半導体は今でも、いや以前にも増して重要な物質となっている。かつてスマホ業界を席巻したHuaweiは半導体の製造を縛られて衰退し、ファウンドリであるTSMCの一挙手一投足がニュースで大きく取り上げられ、2022年4月現在の半導体不足には一般サラリーマンの僕にも影響を与えるほど生活に密接している。

「産業のコメ」から知識をアップデートしなければいけない思いに駆られ、手に取ったのが本著「2030 半導体の地政学」だ。

本著は近年の半導体を巡る国、企業の動向とそこから見えてくる各々の戦略をドラスティックに描写している。ビジネス書というにはあまりに生々しい読後感であったのは著者の筆の癖なのか、それとも半導体があまりにも戦略性が高すぎる物資だからなのか。

半導体は製造するために必要な技術が多く投資額も天文学的なものになる。コンテナが普及し輸送費が問題にならない今の世だ。グローバリゼーションのもと、世界各地にそれぞれの工程(大きく分類して設計、製造、使用)に特化したプレイヤーがいてサプライチェーンとして繋がることで、現在の半導体業界は成り立っている。

国の視点で半導体サプライチェーンを見ると、どこかの工程を抑えられてしまうと半導体の供給が滞ってしまうことになる、、そして半導体は産業・軍事に深くつながっている。半導体は現代ではコメ以上に重要な、それこそ石油などのエネルギー資源同様に戦争にも繋がりかねない重要物資となっている。

その視点で半導体を巡る動きを追うと、国内で半導体のサプライチェーンを築こうとする大国の動きや、急所となる技術を持っていることで国際的なプレゼンスを発揮し安全保障の道を開こうとする小国の振る舞い、民間企業として利益を追求する必要がある会社の苦難が明確に見えてくる。

読んでいて戦記物を読んでいるような興奮を覚える一方で自分の住む日本は?と寂しさを感じることもあった。小学生のころ強いと習った日本の半導体産業の今は厳しい。

そうした日本の状況にも触れてあり、2030年に向けて日本が取るべき戦略についての提言もあった。日本にいま足りてないものは何かは実際に読んで確かめてもらいたいが、少なからず自分も関連する内容で焚き付けられた思いを抱いている。

まとめ

勢いのまま書いたが、半導体産業に疎くても面白く読むことができ勉強になった。半導体業界の現状を把握し、何が起きているのか一段深く理解するのに役立つ書籍だ。投資的な視点でも世間的に知名度が低いがニッチな業界で存在感を放つ企業を知れて良かった。

半導体のこと。地政学のこと。どちらも今のような情勢だからこそ知識を身に着けておいたほうが良いだろう。