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機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

流用しやすい部品なんてものはない

新しく部品を設計すると設計工数、新規金型、各種評価に改造費用と、大量のお金と手間がかかります。なので、部品は過去に作ったものを流用できればそれが最善です。

そんなわけで新規に部品を設計しないといけない時には、お上に「将来に渡って流用しやすい部品を設計しますー」と無表情で宣言するわけですが、実のところ流用しやすい部品なんてないと思っています。

いわゆる流用しやすい部品とはシンプルかつ最小限の形状でデザインされているものを言います。ただし現在見えているコンセプト・部品配置の条件下におけるシンプルさです。

部品配置によって変わる「最小形状」

厚みが厳しい部品配置において求められる最小形状とは、多少縦横のサイズを伸ばしてでも薄く仕上げた形を言います。

企画部門から「薄型こそ最優先」とリクエストがあれば設計部門としては一番薄くできる構成を考えますし、今後も薄型であることを念頭においた上で最小形状をデザインします。

その後、薄型モデルは無事に世に出て次世代モデルの設計に移っていくわけですが、ここで「薄型よりもモジュール追加による機能拡充が必要だ」と方針変更が投げられたとします。

新しいモジュールを詰め込むため縦横の面積を捻出する必要に駆られた時、薄くあること優先で作られた前モデルの部品があちこちぶつかって流用できない…必要な最小形状が面積が最小であることに変わってしまうわけですね。厚みではなく。

将来のトレンド変化を見越せない設計者が悪い

デキる設計者は将来を見越す必要があります。絶えず業界のトレンドをウォッチしつつ自社内の方針の機微を捉えつつ、業界と会社の行く末を事前に察知して未来永劫流用できる部品を設計する。ハイパーデキる設計者やれてしまうのでしょうなぁ。

ただまぁ日本で働く普通の設計者でそこまでできる人ってそんなにいないんですよね。申し訳ないんですけど。将来なんて読み切れないし、将来が読めたとしても周囲にその将来を納得させて先取りした設計で進めさせてもらうってのも厳しいわけで。

そんなわけで普通の設計者が設計している限り流用しやすい部品なんて作れないと思っています。

流用戦略ほしくなるよね

なら部品流用のためにどうすれば良いかなのですが、流用戦略ですね。

設計の前提としての仕様決めの際に、この部品・モジュールは数世代使いまわすぞと決めてしまうわけです。で、流用部品が柔軟に対応できない部分をどの部品・モジュールで吸収するか、もしくは先行で技術開発して乗り切るかを戦略的に決めておく、と。

流用するものをあらかじめ決めておくと、設計コンセプトが固まり流用している世代間で部品配置も似通ってきます。世代が上がるごとに設計完成度が上がっていき、品質面でもコスト面でも優位が見えてくると思っています。というのも筐体設計とはパズルであるんですが、部品配置を大きく変えると前モデルで上げた設計完成度が振り出しに戻っちゃうんですよね。検討工数がかかるし設計品質も落ちるし、設計者も死にます。

まとめ

流用部品かくあるべし的なものを語りました。

流用戦略うんぬんは設計やっている自分から見た理想で、たぶん実現はしないでしょう。
トレンドを先読みするのは難しいです。どの部品を流用すれば開発が容易に工数と品質と仕様を満たせるようになるかを正しく把握して見極めることはそれ以上に困難です。それができるほど各部門が連携することは無いと思います、キレッキレの独裁者が仕切っているところなら出来るかもですが。

そもそも前モデルより小さく薄く、という呪いがなければみんな幸せになれるかもと思わなくはないです。サイズ据え置き、多少増でも納得してもらえるようなバリューを別に用意できればいいと思うんですがねー。製品開発は難しいです。