WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

ファブレスの利点、もしくは自社工場の欠点

Anker本に「世界で最も成功しているエレクトロニクス企業は、工場を持たない」とありました。アップルがファブレスでやってることについての言及ですね。

Anker 爆発的成長を続ける 新時代のメーカー

Anker 爆発的成長を続ける 新時代のメーカー

  • 作者:松村太郎
  • 発売日: 2020/04/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

これだけなら「ふむ...」で済むんですが、日本企業が自社ですべてを囲い込もうとしていたとあって「いや、それは違うんじゃ...」とモヤモヤしてしまいました。ファブレスと自社工場におけるイノベーションの生まれやすさ、変化への適応への違いといった結論は同意するところではあります。が、その結論へ至る道がふわっとしている感じがしました。

そんなわけで常日頃、「クッソ~工場の奴ら、設計に甘えやがって~」と愚痴を吐いている僕が、ファブレスってこういうところ良さそうだよねと思うところを語ります。

ファブレスとは

自社で生産設備を持たず製造業を行う経営方式です。企画と設計だけ内製でやって、作るところはすべて外部でまかなうってことですね。

アップルを筆頭に、キーエンスや任天堂、Ankerなど製造業の有名どころの多くがこの方式を採用しています。

一般的な利点としては、

  • 変化に対し柔軟に対応できる
  • 設備投資費用が抑制できる

1つ目の利点がこの記事で語りたいことですね。

難点は、

  • 情報の秘匿性
  • 品質管理の難しさ

ですね。品質管理については、委託先の工場が情報をオープンにしてくれるか、製造現場を見せて改善提案のやり取りに応じてくれるかがキーになると思います。

企画・設計に集中できない自社工場

僕は転職・部署替えを通して複数の自社工場を体験してきました。彼らに共通してあるのが、設計側の仕事の仕方にガンガン入ってくることです。

自社保有の工場にとって仕事は降ってくるもの。売上が固定されているので、無駄な出費を減らしたり(不良減など)、効率化を図ったり(組立の自動化や工程削減)で利益を増やそうとします。その一環で設計開発の現場に入ってくるわけです。

確かに製造現場の意見を設計に取り込むことは有意です。Design For Manufacturing(製造性を考慮した設計、DFM)という言葉がありますが、製造性が高い設計はモノを作る段での不良が減り、設計者の総工数も減少します。利益も増えるし、不良が少ないことは良いことです。

一方、過ぎたるは及ばざるが如しとも言います。製造への介入が過剰になると、設計開発で力をかけるべき「新しい物を考える」「新しいものを検証する」に使うべき労力が「工場の不良削減に貢献する」に吸われていく。設計側の提案に対しても「不良が増える」を盾に蹴られていく。

同時に、工場側が「不良を減らすために製造側で何ができるか」を考えるべき問題に対し、「設計に介入して構造を変えさせる」を解決案とすることで工場側の技術力、問題解決力の低下にも繋がります。

そんなこんなで、設計開発としては新しいことに注力できず、工場側はスキルが育たないという点で、自社工場はイノベーションや変化への対応に難点があります。純粋に、同じようなものを作って地道に歩留まり改善していくには良いと思いますよ、自社工場。

ファブレスは対会社の付き合いといいますか、工場視点だと設計開発側はお客さんなので、相手方の仕事まで口を挟めないし、向こうの提案も無下にできない。なのでチャレンジが生まれて、そこから製造的なイノベーションに繋がっていくんでしょうね。

設計と工場の力関係

上記読んでて、設計ってなんて立場が弱いんだと思った方もいることでしょう。ここらへんは社風や、業界によるかもしれません。自分は、設計側が強いところも弱いところも経験しました。

設計側が強いところは、製造側が設計の業務状況を良く理解しています。
「こういう提案したら、設計側としてはこのくらい工数取られるし、それなら製造側で対応した方が総工数的に得だろう」
そんな視点を持ってくれています。設計側としては、ありがたいですね。製造側に設計経験ある人はこの思考回路を持ってくれています。

広い視点は大切。
片方の視点しかないと、トータルでものを考えず自分たちの都合を押し付けてしまうものです。
(とはいえ、両方の視点を持っていても立場によって自分たちの意見を押さざるを得なくなることもありますが..)

まとめ

ファブレス良さそうね、っていうよりも僕の中にある自社工場への思いを解き放ったような怪記事になってしまいました。

ファブレスはまぁ、両者がどのくらい腹を割れるかだと思います。外部になる分、情報の入手が困難になる中で、信頼関係築きつつどこまで深く切り込めるかみたいな、技術ではなく人間力が物を言うところがあるんじゃないですかね。

自分は対物ならぬ対人が苦手なタイプなので、ファブレスモデルは合わないだろうなと思う一方、鍛えるためにそういう仕事を経験してみたいものです。

自社工場について胸にしまい込んでいる思いはある一方、工場を持つというのは多くの雇用を抱え込むことでもあります。単純に沢山の人に飯を食わしているという点で、自社工場を保有、運営している会社は尊敬しています。なんとか自社工場のメリットを出して、「ファブレスはスマートでクールな選択だ」って考えている人たちに一発お見舞いしたい思いもありますね。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

temcee.hatenablog.com
久々にこういう、素材について好き勝手言う記事を書きたいなぁ。