WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

【書評】ゼロからトースターを作ってみた結果

ゼロからトースターを作るって、どのレベルから?

背表紙を見てそんな思いに駆られ、手に取ってみると表紙には無残なドロドロした何かが鎮座しているではないか。表紙だけで完全にオチがついている。表紙の名状しがたい物こそゼロから作ってみた結果なのだろう。

本著では表題通りゼロから、鉄鉱石など天然資源の採掘からトースターを作るまでの顛末が書かれている。語り口はコミカルだがしかし製造過程の内容は重厚そのものだ。皆さんは鉄やプラスチックがどのように作られるかご存じだろうか?精製の理論部分を知っているだけでも稀ではないかと思う。ましてや個人レベルで精製方法を実現するとなると、、そのハードルは途方もなく大きい。

そのハードルを前に著者が悪戦苦闘し、時に成功しつつ苦い経験も経て時に妥協し、それでも少しずつ部品を作っていく過程は笑いと知的好奇心を大いに満たしてくれる。原材料を求める旅はさながら冒険譚で精製の過程は狂気に満ちた実験記録の数々だ。(実際にとても危険なことをしている) 時折挟まれる実験や成果物の写真は文章よりも強く訴えかけてくるものがある。身近にあるキレイな金属やプラスチックは複雑かつ大変な工程を経て今の形になっている、笑い事じゃないんだぞと。

本著では工業製品を作る過程でそれが環境に与える負荷への疑問が投げかけられている。同じグループが持つ2つのニッケル工場の対比を元に、将来のために大きな変化を起こすことが出来るのではないかと。今の世は環境への意識が高まっている点では進歩していると言える。いち設計者たる自分のところには環境関連で色々な無理難題が降りかかってきてはいるのだが、、将来に資源を残すという視点で実に有意義な無茶ぶりなんだと諭されている気分になる。

まとめ

軽く読めて面白く、それでいて示唆に富んだ本だった。

現代の大掛かりで洗練された工場を見るのは楽しいが、原始的で粗削りな製造からしか得ることのできない面白味がある。危険だから自分で実践はしないけどね。

最近は現場で手を動かして設計しなくなっていて「作る側」の人間ではなくなってしまったのだなと感傷的な気分に浸っていたところ、この本を読んだいまはそもそも僕は本当に作っていたのかと疑問を持つようになった。確かに設計はしていたが、そこに至るまでに原材料からエンプラやアルミ材を用意してくれた人や型を作ってくれる人、はたまた設計するためのCADを作ってくれた人やそれが動くPCを作ってくれた人、、、と色々な専門職の人の仕事が繋がり、僕の仕事は成り立っていた。その点、僕がやってるのは今も昔も作るという工程のごく一部だけに過ぎないのだと思わさせられた。

最後にこのトースターのデモンストレーション結果だが、、、これは実際に手を取ってみて欲しいね。