チャレンジしたものが必ずしも脚光を浴びるとは限らない。この世には時代を先取りしすぎたものや個性がキツ過ぎて受け入れられず、悲しくも忘れ去られていったものが沢山ある。本日、机の引き出しから出てきたケータイ「F-07C」もそんな存在の一つだ。
ガラケー末期に生み出された魔物
このケータイが出たのは2011年、ガラケーは全盛期を超えて衰退していき、iPhoneが絶対権力を握る中でAndroidが恐るべきスピードで進化していった時代だ。そんなケータイ新世紀にこいつは生まれ落ちた。今は懐かしのSymbian OSの進化の極致、それを証明するかのように。
渾身のデュアルOS
見た目はただの分厚いケータイだ。Symbianのクセにでかすぎじゃないか?そう思う人もいるだろう。しかしコイツの真の姿はSymbianではない、タッチパネル下部の中央に印刷されているマークを見てほしい。見覚えが無いだろうか?よくよくサイドボタンを確認してみると、そこにも同じマークがある。このボタンを押すことで、F-07Cは本来の姿を見せる。ちなみに背景の汚さはスルーしてほしい。
サイドボタンを押すと画面は切り替わり、Windows7モードなる形態へ変化を始める。唸るコイル鳴き、途端に上昇する機体温度、チカチカ青白く光るLED。眠っていたCPU Intel Atom Z650(1.2GHz/ダウンクロックされてて0.6GHz)が目を覚ましたのだ。久々に見せてくれ、その本当の姿を。
遅い、SSD起動に慣れきった今の僕には耐えられない長さだ。画面真っ黒だし、きちんと起動してくれているのだろうか。
カーソルが出てきた。もうちょっとだ!頑張れ 頑張れ
ボタンを押してから1分30秒ちょっと…お決まりのSEが鳴り響く、Windows7の産声だ。これこそがF-07Cの真の姿、Windows7モード。この装置はSymbian OSとWindows 7の二つの顔を持つデュアルOSケータイだったのだ。2011年…Androidが盛り上がりを見せ始めた中で、Windows…しかもモバイル用ではない、これは間違いなくPC用のOSだ。AndroidやiOS…これらはPCで行うようなブラウジングを外で気軽にできるようにしてくれたが、富士通はPCをケータイにするという形でこれを実現しようとした。なんという変態力。企画担当の皆様はお酒をあおったテンションで楽しくこの企画を作ったに違いない。
性能なんて飾りと言わんばかりの圧倒的独自性
Windows7はタッチパネル前提のUIをしていない。操作のためにトラックボールやクリックキー付きのQWERTYキーを採用している。写真ではわかりにくいけど、キーボードはバックライトがあるので光る。小さくて密だから打ちにくいけど、それはしょうがない。肝心の性能はどうなのか?この小さな筐体に、Windows7を動かすだけの力があるのか…?
Windowsエクスペリエンス1.1現実は無常である。また、ケータイのバッテリーでWindowsを動かすにはかなり無理があり、公称2時間、僕の実使用だと20分くらいしかバッテリーは持たない。この大きさでWindowsが!と驚かす一発芸がこのケータイの存在理由だ、毎年現れては消えていくお笑い芸人のようで、悲しい。
しかし、世の中は広い。変態ケータイには変態ユーザーが良く似合う。
おもちゃとして、極一部の人には受けたようだ。
メーカーがバカできる時代よもう一度
最近は全力でバカをやるような会社も減ってきてしまった。競争が厳しくなってきて、選択と集中を行った結果、チャレンジをすることが難しくなってしまったんだろう。そう思うと、こういうものが出てきていた昔はいい時代だったかもしれない…たぶん。
僕がこれを使うことはもうないだろうけど、古き良き時代の象徴として、ガラケーの最期の姿として、もう少し机の肥やしにしておこう。