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リモートワークはハードウェア開発者を救えるか、設計の業務の紹介をかねて考えてみた

先日満員電車に関する意見を書いた時に、「リモートワークが普及すれば」という意見がありました。リモートワーク、在宅なりコワーキングスペースなり、職場以外で仕事をすることですね。そう言えば弊社にも条件付きではありますがリモートワークが認められてたなと思い出したのですが、利用している人を見たことはありません。何故でしょう?日本人らしい周りへの配慮からでしょうか?

結論から言うとハードウェア開発というのがリモートワークと非常に相性が悪い職種なのが原因です。念のため、ここでいうハードウェア開発は主に機構設計(以下、設計と略します)を指してます。

設計の主な業務

僕たち設計のお仕事をざっくり分解すると3つの要素から成り立っています。

「CADでデータを作成する」

「製造されてきたものを評価する」

「安定して量産できるよう製造をフォローする」

会社によっては±αあるかもしれませんが、僕が見聞きしてる範囲ではどのフェーズにも設計が一枚噛んでます。本音を言うと評価は品証が頑張って欲しいし、製造は製造技術がしっかりして欲しいところではありますが……きちんと製品を世に出すまでが設計です。

これら3つの業務をさらに噛み砕いていくと、なんで設計がリモートワークに向かないかが見えてきます。

「CADでデータ作成する」がリモートに向かない理由

CADで設計していると聞くとコンピュータだけに終始してどこでも出来そうな作業を創造するかもしれません。しかしモデリングはコンピュータだけで出来ても設計するとなると別です。なぜでしょう?

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形状の根拠を作る設計にはリアルな情報が必要

設計のお仕事はただ形を作るのではなく、意味のある形を作る事です。その材料や厚み、サイズ感には根拠が求められます。材料のスペックは材料屋さんのHPに行けば分かりますが、それだけで攻めた設計をする事は出来ません。そのスペックのものを欲しい肉厚で作った際の剛性感や塗装やシボを入れたときの見た目の品質などなど、過去に造った製品や材料屋さんから貰うサンプルなどを触ってみて、時には手加工で簡易的に形状を模した原理試作で強度だったり高温高湿などの環境耐性だったりを確認する事があります。こういったサンプルや過去の機種などがいろんな場所に散っていたら効率が悪いですね。そういったものを一カ所に集める意味で、事務所というのは合理的なんです。今の時代、強度の確認くらいはシミュレーションでやればいいという声もあるかと思いますが、シミュは計算に時間かかりますし落下耐性などは正確性に欠けます。それなら簡易的な物を落としたり圧迫したりした方が早いんですよね。

ハイエンドCADにはマシンスペックが必要

僕が設計に使っているCADはいわゆるハイエンドCADで、それを動かすコンピュータもXeonが入ったワークステーションです。個人でそんな代物を用意するのは大変ですし僕の場合は家に置き場所もありません。セキュリティの事を考えないのであればリモートで動かすという手もありますが、リモートでラグが発生するような環境ではストレスフルでモデリングなんてやってられません。

DRは気軽にコミュニケーションを取りながらやりたい

設計に煮詰まってきたり、他の人の部品に影響するような箇所については他人とコミュニケーションを取る必要が出てきます。これは設計が上流であればあるほど頻繁に発生する事です。リアルに近くにいるなら周囲やチームメンバーに声掛けして自席でCADを回しながら気軽に話し合えますが、リモート状況下だとそうはいきません。画面共有だったり電話会議システムのおかげで全く出来ないというわけではないですが、コミュニケーションの速度は落ちますし、ホワイトボードで模式図を書くように皆で視覚的に考えるにはまだリアルには及びません。ワイガヤ感も出ませんしね。

「製造されてきたものを評価する」がリモートに向かない理由

設計した物が実際に物として出来上がってきました。これらは世の中に出る前に試作という形で組み立てられ、安全性や仕様性能を満たすかといった設計の妥当性を様々な評価を経て確認される事になります。

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評価設備が必要

これは当たり前の話ですね。評価には大掛かりな設備が必要なものがありますし、マイクロスコープや精密な3次元測定器などがなければ試験の合否もNGの際の問題分析も行えません。これらは設置場所とお金の観点からして、相応の場所が必要となります。

試作機は人目に触れてはならない

当たり前ですが試作機は機密事項です。これが外に出回ると営業戦略に影響するのはもちろん、他社の手に渡り解析されてしまうとそれを前提とした製品を被せられる可能性があり、自社にとって大きな不利益となります。そのため試験機は社内であっても取り扱いに注意されるものですが、そんなものが会社の管理外の場所に多数出張っているというのはリスクでしかありません。

試作機を組み替えるための代替部品置き場が必要

試作用の部品は大した数を造りません。しかし金型をセットして物を造るというのはそれないの工数を要するもので、つまり試作部品とそれを元に組まれる試作機は単価が異様に高いです。そんなわけで少量生産の試作機は往々にして評価で使い回され、消耗・破損した試作機は設計者がちみちみと部品を組み替えたりします。エクシアリペアみたいでかっこいいですね。これら部品は分散していては意味が無く一カ所に固まっている必要があります。また機密の観点から製品発売まで部品レベルでも捨てられないため、全期間の部品を保管できる広い場所が必要です。やはり事務所での管理が合理的でしょう。

「安定して量産できるよう製造をフォローする」リモートに向かない理由

評価基準をクリアする設計ができました。さて量産と行くのですが、沢山造ったり初めての作業者がジョインする量産工程ではたくさんの問題が起こります。これを何とかするのは製造技術のお仕事ですが、製品の事を誰よりも理解しているのは開発者なので設計者も力を尽くします。ラストスパートです。

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事件は現場で起こっている

この一言につきます。量産の問題は作業員だったり設備だったり、または納品された部品に問題があることから生じます。それらを解決するためには現場を見るしかありません。離れた場所から動画や写真で工場の様子を見れたとしても、それで何が解決できるでしょうか?VRが最近の流行ではありますが、現代の物作りはまだ現物の呪縛から逃れるには至って無いのです。将来的には現地と同等の情報量が得られるまで技術が発展してくれれば良いのですが。

ハード開発はリモートに向かないが……

つらつら書いていきましたが、ハードウェアを開発するにおいてリモートワークはメインの働き方にはなれないかと思います。ハード設計者は事務所から離れられず、満員電車からの開放も夢のまた夢なのでしょうか。

ただ、ハード設計者もすべての時間において事務所に縛られる必要があるわけではありません。資料作りをする事もあればメールやりとりに時間を費やすこともあります。そういった傍流ではあるけれど確実に存在する業務を、どこかまとめて執り行う日を作る事が出来たなら、その時はリモートワークの出番でしょう。リモートにしたり、しなかったり…必要なのはそういった選択肢を用意する事、労働の柔軟性なのかもしれませんね。

 

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