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フレキシブル基板(FPC)の3Dモデルをどこまで作り込むべきか

フレキシブル基板(FPC)とは、柔軟性があり折り曲げることができる基板です。

リジッドな基板同士の中継役をしたり、狭いスペースを3次元的に効率よく使うために、よく利用されます。

このFPC、3Dモデルにするには複雑な代物なんですよね。完全に現物に合わせ込むようモデリングしようとしても、無理が生じます。

今日は、そんなFPCのデータと現実の差分をどこで割り切るか、というお話をします。

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これはただのごちゃごちゃなケーブル

多層からなるFPC

FPCは複数の層から成り立っています。ベースフィルムがあり接着層があり、パターンの導体があり、カバーレイがある。といった具合です。

これらの層は全面に均一に存在するわけではありません。パターンは配線都合で走っていない箇所があります。カバーレイは、導通を取る箇所で抜くこともあります。

そんなわけで、FPCは厳密には厚みが不均一です。多層であれば、パターンが全層で走っている箇所と、全くない箇所では0.1mm程度も厚みが変わってくるものです。

では、そういった部分部分の厚みの違いを3Dモデルに反映させるのが良いのでしょうか?

それはそれで問題があります。

展開する必要があるFPCのデータ

FPCのモデリングは縦横無尽、いろんな箇所を曲げたり折ったりなモデルになるかと思います。しかし、FPCの出来上がりはシート状です。よってFPCを製造するためには平坦に展開した状態のモデルが必要です。そのためには、3D-CADでモデリングする際に、シートメタル機能を使って作り込む必要があります。シートメタルを使うと、自然と板厚は一定になります。現物とデータの間に差分ができてしまうものです。

こうした厚み差分は、たいてい数十μmで、メカ屋的には小さな寸法です。それでも、この小さな寸法をケアしていないことで、FPCの平面度がおかしいことになったり、実装スイッチが思っていた場所にいなかったりと、不具合につながることもあります。

別モデル?色分け?

こうした現物とデータの差分を埋める案として、2つのアプローチが思いつきます。

  • 展開前形状を外部参照で持ってきて、別ファイルで3D形状を作る
     (つまり3D用ファイルと図面用ファイルの2つを用意する)
  • 厚み別でサーフェスを分割し、色分けする

悩みどころなのは、どちらも作業工数が増えるし、他の人と足並みを揃える必要があることです。共通ルールがなければ、事故の要因になりかねません。

曲げRの実際は?

板金の曲げRは金型で安定した曲げRになります。一方、FPCの曲げRは人の手で曲げられるので、正式なRがどの程度になるかは予測が困難です。

FPCに慣れた設計者なら、そのあたりを考慮してFPC曲げ付近にはスペース・FPC長さに余裕を設けてあるものです。設計的にはそこで終了なのですが、モデルとして設計値のFPC長さになるように、曲げ位置やRを調整しないといけません。

その際に、きちんと干渉なく収まるようにモデリングするか。それとも、長さが設計的に正しければモデルとして破綻(例えば他部品との干渉)していてもいいのか。

個人的には、FPCのモデルを実際の収まりに近づけるように作る、という作業は趣味の世界かと思っています。FPCの現物は決して人が書いたようには収まりません。設計的な論理を持った長さは計算で出せるものなので、モデルはあくまで展開したときに狙い値になるよう作ればいいのでは、と思います。

ただ、干渉したモデルというのは、他の人が見たときに受けが悪いというのもあります。偉い人が気にし始めると、説明が大変です。

そういう意味でも、FPCのモデリングをどこまで正確に書くべきなのか、見極めは面倒な問題です。

まとめ

FPCのモデリングはめんどくさいよ、というお話をしました。

上記の話以外にも、図面化を見越した場合にはもっと制約が出てきます。また、複雑に曲げすぎたFPCモデルは、展開もすんなりいかない事が多いです。そういうのもあって、あまりデータとしては作り込み過ぎないほうが良いんじゃないかと思ってます。

一方、やはり厚みや曲げRなど、3Dで配慮できていないところが要因で、1つ2つ問題が起きるのも、現実問題としてあります。

個人としては、そうした経験から学んでいくことで次の未然防止に努めるわけですが、組織全体の知見向上につなげるのは難しいです。なにか気の利いた解決方法が見つかると、良いんですけどね。

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