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【書評】公益資本主義~日本株の未来を占う必読書

岸田政権が看板として掲げる「新しい資本主義」。その元ネタと言われているのが本著 公益資本主義です。著者の原丈人氏は岸田首相のアドバイザー的立ち回りをしており、日本株の不振もあって最近は一部界隈で良く名前を目にしますね。

言わずもがな株式の将来性は国の指針が大きく影響を与えるので、いま国が社会をどのような方向にもっていこうとしているかは必修事項でしょう。ということで、自分も読んでみた次第です。

株主資本主義からの脱却

本著では米国的な株主資本主義からの脱却が強く語られています。株主資本主義とは、株主が会社を所有するという考え方です。 本来は公益となるような長期的研究開発を支える事業資金を提供するべき株主が、短期的視野で株価の上下と配当にだけ気を使いマネーゲームを展開して格差が拡大している。だから株主重視の今の資本主義を捨て、新しく公益にのっとった資本主義にしましょうというのが全体を通して主張したいことでしょう。

株主受けのために資金圧縮でROEを向上させた会社の不景気倒産、リストラで利益を上げたCEOへの過剰ボーナス、ブレグジット...株主資本主義のデメリットについて具体例を挙げながら主張を聞いていると、確かに一理あると思わされます。実際格差は広がっているし、インフレは進んでいるしで、株式だけを重視するのは良くないよなぁと。ならお前も株やれよという話なのですが、庶民の資産規模ではリスク負わないと大した利益出せないというのが、リーマンショック前から株式触っている自分の感想です。

公益資本主義の内容

公益資本主義実現の具体的方法はこの本を読んだみんなで考えてくれ!的なことが冒頭に書かれていて面食らったのですが、以下のことを重視していくと述べられていました。

  • 社中分配
  • 中長期投資
  • 起業家精神による改良改善

従業員に報い、短期的利益を追求するのではなく長い目をもった投資を行い、リスクをとって様々な挑戦を行おうというものです。従業員目線だと、全部良いことに聞こえますね。

昔の日本の考え方では

著者は昔の日本は公益資本主義的なふるまいをしていたと述べてますが、確かにちょっと前の日本の会社は株主対策をあんまりやってなかった印象です。ROEも低いし配当も渋い、自社株買いもしない。でそれじゃだめだと、色々海外の真似をして株主重視するから日本株も買ってくれよと打ち出して外国人投資家がたくさん来てくれて、ここ数年は日経平均も順調でした。

で、公益資本主義ではその株主対策を打ち切っていくというわけで、社会的な良し悪しは別として株式は落ちる方向に行きそうですよね。それが雇われの身や会社運営にどう影響を与えるのかは分からないですが、昔の日本は今にも増して閉塞感が強かったので、日本だけ急に別方針に今のグローバルな流れから転換してやっていけるのかなと疑問に感じます。

まとめ

とにかく株主が悪者な本です。岸田政権もこの流れを汲んでいるはずで、投資家目線で見るとしばらく日本株は厳しい期間が訪れる予感がします。いまは外国株投資が気軽にできるので、投資資金はそちらに流れそうな感はありますね。

一方、非株主視点だと目指すべき姿としては悪くないかなとも思います。材料系など長期投資が必要な分野は今でも日本は強いですし、日本人の気質に合っているだろうとも。

何れにせよ国が目指そうとしている世界が理解できます。岸田政権がどこまでやれるか未知数ですが未来を占う意味で一読の価値はあります。