読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

地獄で思い知った日本メーカーのこだわり

雑記

僕は新卒で日本のメーカーに入社した。一般研修と技術研修という平和な期間を経た後、晴れて残業が解禁された僕を待っていたのは意欲的かつチャレンジングなプロジェクト、簡単に言えばキッツイ機種の開発だった。(会社バレ人バレするのが怖いので、何の開発かという点はボカして話を進めます)

 

最初の方は身体を張って評価をしたり組立工場に行って人質になったりと、体はともかく精神的には余裕のある残業ライフを送っていたが、そのうち僕にも担当部品ができた。その部品は外観部品でもあるスライドヒンジ、外観部品のため塗装品質やキズに対する要求が厳しく、また動作をする部品のため耐久強度や動作品質(ガタガタしないか、とか)も要求される部品だ。僕は新卒の設計ニュービーだったので、もちろんイチから設計するわけではなく試作を何度も重ねた段階で引きついだ物だった。普通ならベテランに調理された経験値の塊と言える新人教育にふさわしい部品…しかし実際は担当者が諸事情により何回も変わっている、いわく付きの部品だった。ちなみに、最後に担当した人は「終電なのであとはよろしく。」と言って帰った後、二度と会社に現れることはなかった。

 

開発スケジュールも後期に差し掛かっていた割にその部品のレベルは恐ろしく低くかった。塗装の色はバラつき異物による凸やスライド動作によるスリ傷で外観はダメダメ、動作も引っかかりがちなものや耐久動作が持たないものが多く、問題は山積みだった。原因は初めての機構に対する初期検討の甘さ、初めて外観部品造る製造ベンダーの外観品質意識の低さ、担当者の愛社精神の無さ、仕様やチームメンツの変化が激しく対応が後手後手になったなど、さまざまだ。「この部品のために開発が止まるのでは」「僕は人身御供となるのでは」試行錯誤と挫折の循環地獄は次第に僕にネガティブなイメージを植え付けていった。しかし、チームリーダーや課長は諦めはなかった。ある日、僕は課長に拉致されて製造ベンダーに監禁された。

 

製造ベンダーについた僕を待っていたのは無数に並ぶスライドヒンジ、そして製造ベンダーの重役の面々。「MC、スクリーニングだ。」ポケモンに命じるように僕に支持を出す課長。ポカンとする僕、MCはこんらんしている。「障害別にして、その中でレベル分けするんだよ!」僕にもわかるように噛み砕いて指示を出して頂き、なんとか指示を理解した僕は作業に移り続けた。しかしことは簡単ではない。モノ自体が大量であることに加えて障害の種類も豊富、さらに感性でしか分からない定性的な項目もある。課長からのダメ出しもある。

 

東の空にあった太陽が僕の上を通り過ぎ西の地平へ消えていった、スクリーニングをようやく終えた僕と課長は、どのレベルまでならモノがつくれるかという交渉をベンダーと始める。こちらの会社基準では…「無理」、少し緩和したレベルでも…「無理」。無理無理無理、ジョジョのラッシュのようにベンダーの皆さまは言う。交渉は続く。食事はとらずコーヒーで飢えと集中力を満たし、やがて駅の電気も消えた頃、ようやく両者での合意が取れた。結果は全体的にベンダー側の根負けだ。僕自身はかなり折れそうになったが、課長はそれを許さなかった。恐ろしい執念、責任感からなのか設計者としてのプライドなのか、僕にはわからない。

 

ベンダーの部品供給レベルは決めさせた。悪い部品は選別で落ち、良品だけが入ってくる。万事解決!といけばいいが、現実は厳しい。こちら側に譲歩する形で決めた限度…製造レベルがそこまで上がらず良品率の低さから部品が満足に揃わなくなることが判明した。その連絡が届いてからのリーダーの動きは早かった。すぐに自身と僕、暇そうにしてる別PJのメンツを確保し、ベンダーの工場に直行、そして僕達は再生作業員となり、一般工具と自身の感覚を武器にNG品をOK品に変える作業に移った。ベンダー出荷前のものを別会社の人員が触るのは、責任元の問題や費用の負担元などの点で問題がある。(実際にあとでモメた)しかし、それを差し置いて迅速にモノを確保し、予定通りの製品出荷を遵守する…そうした姿に僕は設計者としての心構えを感じた。

 

現在、僕もある程度は成長して自分でイチから設計をすることがある。開発に問題はつきもの、多かれ少なかれ、大なり小なり問題は起きる。折れそうになったとき、妥協思想になった時にふとかつてのスライドヒンジを思い出す。”あの時の課長ほど品質の分岐点について考え抜いただろうか?” ”リーダーが納期と品質を守った時のことを思えば、まだ頑張れる点があるんじゃないか?”ふと問いかける。風に吹かれる草のように流されっぱなしになりそうなとき、頑として己を曲げなかった先輩たちを思い出し、もうひと踏ん張り粘るようにしている。