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IPX4(防滴・防まつ)は、なぜ防水保証が難しいのか?

近頃のモバイル端末は防水性能をうたうものが、日本製に限らず増えてきました。

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これら防水製品のスペックを注意してよく見てみると、堂々と防水性能を宣伝しているものがある一方(IPX7,8 )、IPX4相当、防滴に配慮した設計…などとお茶を濁す表現に終わっているものがあります。

完全密閉までいかなくとも、防滴性能も度合いを表す等級があります。にも関わらず、気持ちよくスペックを言いきれないのは何故か…、その理由を書いていきます。

防塵防水規格のIP規格のおさらい

防塵・防水性能の規格は、IP規格が有名です。1桁目が防水、2桁目が防塵性能の等級を表します。スマホのスペックでIP58なんて書かれてるのをよく見かけますよね。あれは、IP5Xの防塵性能とIPX8 の防水性能を保証しますよ、という意味です。

規格の等級が証明する実力は、意外と定性的な表現がされており、各メーカー・評価機関がそれぞれの試験方法をもって、相応の防塵防水性能をもった設計であることを証明しています。

完全防水はエアリーク試験で全数検査できる

IPX7,8 は水中の浸せきや水没に対する性能を保証します。この等級に対応するには、内部が完全に密閉されるような設計が求められます。

例えば防水仕様の両面テープだったり、シリコンゴムのパッキンを潰したりで、どの経路からも水の侵入を防ぎ、唯一ゴアシートで、気圧変化に対応するための呼吸穴だけ存在する。それが防水設計です。止水面は寸法や組み立てが安定するよう平面とし、段差・継ぎ目も避けます。(時折チャレンジして修羅場になる機種もありますが)

こうした密閉型の機器は、組立ラインにて全数検査が可能です。エアリーク試験という手法で、減圧・加圧方式とありますが、端末内部の空気が漏れるかどうか、を検査するわけです。空気が漏れなければ水も侵入しない、ということです。ライン上で検査できるくらいなので、試験にかかる時間は10数秒程度です。

防滴設計の曖昧さ

防滴の設計、となると毛色が変わってきます。

止水面が3次元的な曲面だったり、止水の材料にメジャーな緩衝材であるポロンを、継ぎ接ぎしながら使ったり…入り組んで飛沫が入りにくい箇所や、実用上問題ない箇所はノーケアの時もあります。

結果、防滴レベルの設計では密閉とはならず、空気が漏れる隙間ができます。先に名前を出したポロンなどは、発泡材で空間が繋がり空気が通り抜けるので、これを使ってればそもそもなお話です。

検査ができない=保証できない

空気が漏れるとなると、エアリーク試験は行えません。

となると、どうすれば防滴性能を担保できるでしょうか?

僕の経験と、想像力をフル回転させても、思いつく方法は「実際に防滴評価を行う」です。

IPX4の場合はあらゆる方向からの散水ですね。水量や試験時間は会社によってまちまちですが、数分程度の時間はかかります。ラインで行うにしては、現実的な時間ではないですね。

それ以前に、ラインに散水ノズルを設置するのも、出荷する製品に前もって水をかけるのもナンセンスです。

結果、完全防水までいかない防滴端末の検査は、抜き取りで水をかける程度になります。傾向的な異常の発生は発見できますが、全数の性能を保証することはできません。

雨はIPXいくつなの?

よしんぼ防滴性能を全数、定量的に検査できたとします。それでも防滴を保証するにはハードルがあります。それは飛沫や噴流といった試験が、実用上のシチュエーションをカバーするものでは無いからです。

防滴性能を担保する、と言われて、皆さんはどのくらいの水に耐えて欲しいと思いますか?

雨で使っても安心だとか、お風呂の中、アウトドアのハードな環境に耐えることを期待する人もいるかと思います。そうした期待とIP規格の試験の程度は、完全にリンクしていないものです。

雨に対する防滴と言っても小雨と大雨、嵐ではそれぞれ耐えるのに必要なレベルは違います。お風呂の中で使うとして、浴びるシャワーの強さやかかるしぶきも、それぞれですね。

ヘタに防滴をうたって市場で水没が起きた時、「そのシチュエーションはIPX4の水準を超えてますので…」といったところで納得を得るのは難しいのではないでしょうか。こうした、ユーザーの期待のバラつきも防滴保証の難しさに繋がっています。

まとめ、防滴は口コミを頼りに

防滴の保証が難しい理由をまとめると、「評価できない・防滴の期待値が人によってまちまち」と言えます。

とはいえ、防滴の端末にもレベル差はあります。その判断をするにはどうすればいいでしょうか?

確かなのは実際に使った人たちの意見、口コミです。カメラなどは、メディアが比較試験を行ってくれたりしてますね。YoutubeでもiPhoneを毎機種、水に沈める人がいたかと思います。そうした情報を元に判断するのが、一番確度が高いと僕は思います。

防水・防滴端末の設計を経験した身からもう1つアドバイスするとしたら、「防水を信用するな」ですね。

防水というヤツは非常に敏感で、糸クズ1つ、両面テープの加圧不足が1か所でもあれば不良になります。出荷時にOKでも、経年劣化や、使用環境による外力などで歪みや反りが蓄積していくとどうなるか…。

量産した端末がエアリークNG→その晩、工場に飛んで原因解明→ラインが止まる前に暫定対策の検討と導入。防水端末の量産現場でよくある光景です。僕もこれを経験してるから、防水端末を完全には信用できないんですよね。

そんなわけで、防滴ではなく防水をうたっているものでも、丁寧に使用することをオススメします。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com
運動用のウォークマン、 IPX8です。公式では水泳でも使ってるので、ガッチリ防水設計にしてそうです。

temcee.hatenablog.com
丁寧に使うなら防水はそもそも不要だったりします。防水機構が無い分、軽くて小さいです。