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Nintendo Switch品薄の原因を製造業視点で考察

Nintendo Switchの人気が衰えません。

2017年3月3日の発売から5ヶ月が見えてきた今現在でも品薄により入手は困難となっています。転売の値段は釣り上がり、抽選販売でゴタゴタが起こり在庫情報をスクリプトで取得する人も出てきています。いやはや羨ましくなる好調具合ですね。

品薄についてネットでは品薄商法との声を上げている方もいますが、品薄で大元が値段をつり上げているわけでも無し、単純に機会損失しているだけなので、任天堂が望んで品薄にしているわけではないでしょう。となると、今の品薄はどうしようもない要因、製造の限界によるものと考えられます。

ボトルネックとなりうる3つの製造限界

製品は完成品となるまでに3つの過程を踏む事になります。

「他社購入品の調達」「自設計の部品製造」「それらを集約して組立」

このどれかが滞ると、全体の製造もそこに引っ張られる形で滞ります。ボトルネックってやつですね。Nintendo Switchの増産が進まないのは、この中の何れかに問題があるからでしょう。

他社購入品の調達

電子部品やコネクタ、ディスプレイや演算用のチップなどなど。これらは任天堂が1から作ってるわけではなく、それ専門でやっている他社から購入しています。

その購入計画は事前に任天堂から提示された量産計画を元に建てられているはずで、「Switchが好調だから明日からもっと部品を供給してくれ」なんて即座の増産に対応することは難しいでしょう。

部品メーカーは任天堂1社だけを相手にしているわけではなく、ゲーム機以外の各種電化製品メーカーも大切な顧客なわけです。任天堂以外の顧客の量産計画と調整しながら対応する必要があります。

個人の経験から供給が滞りそうなモノを推測するとしたら、パネルでしょうか。

スマホ、ないしパソコンで使われる一般的にありふれたサイズの液晶なら流通量も多いでしょうが、Switchの6.2インチはメインストリームではありません。任天堂専売ともなりかねないパネルに対して製造ラインの増設に踏み切るのは、部品メーカーにとって気が進まないことでしょう。任天堂がお金を払って増やしてもらえば、話は別でしょうが。

またパネルは歩留まりも悪いです。タッチパネルと液晶が接着剤でボンディングされた状態で購入してきているかと思いますが、この接着にゴミの混入や気泡による不良が起こります。

解消方法として調達先を増やすことが考えられます。というか任天堂ハードは数千万台レベルで売れるものなので、すでにマルチベンダーによる調達はなされているでしょう。そこから、さらに増やすということですが…電機デバイスは寸法で互換になっていても電気的な性能や故障への耐性などに差分があるもので、それらを量産初期から急遽追加するというのは中々のリスクです。僕が設計なら気が進まないし、やるとしても慎重に評価し治してからの量産導入とします。

自設計の部品製造

外装や内部の機構品などは、樹脂成形やらプレス成形やら、金型を用いてほぼ作られている事でしょう。

これらは自動なので、稼働時間を増やせばそれだけ増産は可能です。が、限界があります。どこに行っても1日は24時間しかないのです。

フルタイム稼働でも足りない。そうなると金型自体を増やす必要があります。金型の構造や製品のサイズにもよりますが、金型を掘るには2ヶ月くらいは必要で、新規の金型がきちんと出来ているかの評価も執り行う必要があります。

既にあるものを増やすとなると簡単に聞こえるかもしれません。しかし金型の増面は厄介のもとになります。

モノにはズレが生じます。どれだけ精度のいい設備でも数十μオーダーの違いは出てしまうものです。攻めた設計をしている製品は、このズレによってオリジナル金型にはなかった隙間や段差、握った時の異音などが発生し得ます。

組み合わせによって起きたり起こらなかったりするので調査は面倒で、同じ部品でも金型違いが後からトレースできるよう、管理方法も考えておく必要があります。

集約して組立

任天堂は自社工場を持たないファブレスでしたね。ま、自分で組み立てるか他人に組み立ててもらうかの違いはあれど、部品を最後に量産工場で組み立てる事には変わりないでしょう。

組立は一番即座に対応しやすい工程でしょう。基本的には人を増やせば増やすだけ生産能力を上げる事が出来ます。増やし始めは効率が悪く歩留まりも低いでしょうが、作業者が慣れてくれば次第に上向きます。Switchを分解したことので中の構造は分かりませんが、ゲーム機の組立は電子機器の中では簡単な部類でしょう。

ただし検査に設備が必要であるときはこの限りではありません。最近のゲーム機はパソコンよろしく通信のオンパレードですから、人海戦術にも限界があると言えます。そして設備を増やすとなると、これまた時間がかかります。

生産体制の強化は秋以降

一ヶ月前のお知らせによると、秋以降には生産体制が強化されるようです。

「Nintendo Switch本体」品薄のお詫びとお知らせ|サポート情報|Nintendo

この強化がどのボトルネックの解消を指しているかは分かりませんが、もうしばらくは現状の生産能力で頑張っていくわけですね。

ゲームには楽しむための鮮度があります。発売直後の、手探りで盛り上がっているタイミングがそれです。

できるだけ早く、Switchを求めている人達の所に行き渡ると良いですね。

PS)

(ちなみに僕は購入予定が)ないです。

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悲しみの万年S。