ちょっと前にバンダイが発表したフミナ先輩、もとい「ホシノ・フミナ」のプラモが話題になりました。子のプラモ、何が凄いかっていうと肌の質感を無塗装のプラスチックで再現させたんですよね。塗装無しで鑑賞に耐えうる外観が得られるということで、塗装の手間は無くなるし塗装剥がれの心配もなく、子供が舐めちゃっても安全です。樹脂成型をかじった身からすると、何よりも打ちっぱなしの樹脂でフィギュアレベルの外観を目指したって点が最高にクールだと思います。
で、そんなフミナ先輩の開発秘話が公開されたんですね。前後編ともに成形や金型にまつわる苦労話が綴られており、開発関係者の皆さんの熱意や努力、モノづくり現場の地道さが押し寄せてくる感じで、大変に読み応えがあります。
フミナ先輩を作る上でのチャレンジ項目である、「樹脂を透かした上での色再現」や「目立たず樹脂を流せるゲート位置調整」も当然ながら凄まじい知見の産物です。ですが、何よりも凄いのは多色成形機と、それを使いこなすノウハウだと思うのです。
普通の二色成形
多色成形の前に、一般的な成形のお話をしましょう。
1つの部品を複数の樹脂で形成する技術、それ自体はバンダイの多色成形に限らず、普通の成形方法として存在します。例えば携帯の端子のフタです。
このフタは外装面を固く塗装しやすい樹脂、本体へのひっかけを弾性のある樹脂(エラストマ)で形成されています。単このように2種の材料を一体で成形する手法が二色成形(ダブルモールド)で、 ざっくり説明すると下記のように部品を成形します。
成形中に金型が回転して1次・2次の金型で成形を行うことで、2種類の材料で部品を作るわけですね。
バンダイの多色成形
で、バンダイの多色成形です。記事によると最大で4種類の樹脂を流せるそうです。
成形方法や金型の詳細は、当たり前ですが門外不出のようで調べても出てきません。なので以下は僕の想像が多分に入っています。
フミナ先輩とかフィギュアライズバストのキラとかの、成形でキャラクターの顔を再現するために使われている手法は、二色成形の発展形なんじゃないかと思います。
つまり、1次成形で1色打ったあとに2色目用の型に移動して2色目を打って、次に3色目…みたいなイメージです。分かる人用の言葉で言うと、インサート成形ですね。樹脂をインサートするイメージで成形してるんじゃないかな。
で、ガンプラみたいに色分けされたパーツが1つのランナでつながっているものは、不動の金型に対して同時に樹脂を流して作っているんでしょうね。
部品に影響を与える成形の要素
1つの金型・成形機で複数の樹脂を打てると、パーツの組立工数は減るし、不要部の樹脂も減ってスッキリします。ならなんでみんな多色成形をしないかというと、やはり難しいからです。
成形部品は成形における様々なパラメータの影響を受けます。ざっと思いつくだけでも下記のように、温度や圧力で敏感に外観が変わってくるものです。樹脂をギュッと入れすぎてバリが出たり、圧が弱すぎて収縮率の違いで面の凹凸が激しかったり。最悪の場合、樹脂が流れずに形状が出来上がらなかったりします。
単一の樹脂を流している間は、その樹脂に特化して成形条件を最適化していけばいいでしょう。しかしそれが4色になれば?1色の最適条件に寄せると、他の3色が破綻しちゃいますよね。4色すべてに適応できる条件を見つけなくてはいけません。全体最適ってやつです。
最適な条件や樹脂の流れやすさは、形状によって変わってきます。
4色流す金型のなかには樹脂が厚いところもあれば薄いところもあり、入り組んだところもあれば、平たんな箇所もあるでしょう。(フミナ先輩の「樹脂を透かした」なんてのは、たぶん樹脂の厚みをガンガン変えてるので、成形がめちゃ難しいと思ってます)
いろんなパーツが介在する金型の中を、樹脂がどのように流れるか想像しながら成形条件を見つけ出すことは、ガンプラの記事にも時折書かれているように、熟練の職人と社内に溜まったノウハウ無しには実現しないでしょう。いやー、真似できないですね。凄いとしか言いようがない。
まとめ
ガンプラを支える多色成形ってすごいよね、というお話でした。
多色成形機を使い倒すノウハウは、時折変態技術として紹介されますが、この技術の基礎は決して派手なものではないと、僕は考えています。
成形条件出しのためのトライ&エラー、金型の設計へのフィードバックと度重なる金型改造。これらを、部品の設計、デザイン原型など巻き込みながら、長年少しずつ発展させてきたことで、今のフミナ先輩が出来上がっているんでしょう。一言でいうなら、地味な蓄積の産物です。
ハードの技術って、ほんと地味な積み上げだと思うんですよね。何れは、ディープラーニングとかでスパッと条件出しができるようになるかもしれませんが、その時も蓄積した知見は教師データとして有用な資産になるんじゃないかと、勝手に思っています。
地味な作業を根気よく続けられるところは、日本人の得意な分野であるし、だからこそ日本はハードが強いんだと思ってます。今後もちょっとずつバンダイにはチャレンジの枠を広げながらノウハウを貯めて凄いものを作ってほしいし、自分も地道に勉強と経験を積んでハードエンジニアとして成熟していきたいなーと思う所存です。
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