WICの中から

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iPhone SEの消失に、今後の小型スマホを開発する困難さを考える

新型のiPhoneが発表されて盛り上がっている中で、iPhone SEがひっそりとサイトから消えました。根強いファンが沢山いたようで、消えたiPhone SEをしのぶ記事が次々と公開されました。

この件から、小型スマートフォンの需要は一定数存在することが分かります。では何故、どこも出さないのか?今後、出る可能性はあるのか?

昔々、携帯開発をちょこっとだけかじった身として、技術面で思うところがあるので、あくまでいち個人の考えとして、書いていきます。

5Gを見据えてアンテナが増える

5G、2020年にサービス提供開始を目指してますね。ドコモの公式サイトにホワイトペーパーがあり、そこには「1000倍以上のシステム容量」とか「100倍以上の同時接続数」とか「10Gbps以上のデータ伝送速度」とか、夢のような要求仕様が語られています。

で、重要なのは、どう実現するか、ですね。

ドコモの技術トピックスに色々と技術的なアプローチが書かれています。その中の主な技術として、「幅広い周波数帯を有効活用する技術」というものがあります。複数の周波数の電波を使うみたいです。

電波をキャッチしたり放射するにはアンテナが必要で、アンテナは周波数…波長に応じた、ちょうどいい長さが必要です。使用する周波数の数だけ、アンテナが必要になってくるわけです。どこに入れるんでしょうか?

今のスマホのアンテナ

スマホのアンテナ、今は外装の金属を使っているものが多いです。

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このiPhone、上の方に色の違うラインが走ってますよね。これ、金属を樹脂で区切ることでアンテナにちょうどいい長さに、外装を整えているんです。

小型スマホになればなるほど、外装の長さっていう縛りが大きくなりますよね。5G過渡期は4Gとの共存も必要でしょうし、国やキャリアによって異なる通信方式・周波数帯をカバーするにも、いろんな長さのアンテナが複数個、必要になってきます。

5Gに使われる周波数は高周波で、波長はミリ波らしいですが、それでも複数用意しようとすると結構な外装サイズが必要になってくるのではないでしょうか。

外装が金属じゃないスマホもあるじゃないか!と気付いたあなた、鋭いですね。

LDS(Laser Direct Structuring)って技術があります。特殊な樹脂材料にレーザー当ててメッキすることで、樹脂に回路を形成する技術です。これで、樹脂にアンテナを描けるんですよ。

「じゃあ、小型スマホでも、中の樹脂部品にLDS使えばアンテナなんて楽勝なのでは?」

そういうわけでもないんですよね。

物理制約が多いアンテナ周辺

アンテナがきちんと電波をキャッチするためには、周辺の形状も気を付けてあげないといけません。

具体的には、「アンテナと間違えちゃうような、電気的に浮いた金属」、「電波からアンテナを隠しちゃうような大きな金属」。これらをアンテナから遠ざけないといけません。もちろん、アンテナ間も近すぎると良くないです。

さらに、アンテナで信号のやり取りするには基板に接続が必要ですね。そのためのケーブルに、接続するコネクタ。これが必要になってきます。

小型スマホはアンテナによってスペースを削られた上に、狭い基板はコネクタに占められ、金属を含むデバイスも配置が制限される…。

電気や各種デバイスについて、私は門外漢ですが、基板にしても大きな電流が流れてる線とか、画像処理関連のノイジーな線の近くにもアンテナは置けないんじゃないかと思います。

小型スマホを成り立たせるための取捨選択

アンテナにスペースが取られてしまう関係上、小型スマホはある程度の割り切りが必要になるんじゃないかと思います。

割りきりというのは、「スペック割り切り」と「国・キャリアの割り切り」の2種類がありそうですね。

前者について、スペースというのは機能に直結します。電池が大きいほど電池は持つし、2眼カメラとか、カメラ2個入るスペースが必要ですね。メモリ増やすにも基板スペースが必要です。

小型スマホでも、厚み方向にサイズを許容すれば多少はスペックも確保できるかもしれません。基板を2枚重ねて、インターポーザでつなぐ手法があって、実装面積を3次元で稼ぐ手法はiPhoneでも採用されています。とはいえ、これを量産品で実現しているのは、僕の知る限りアップルとHuaweiだけです。基板同士を精度よく接続する技術と、ミスった時にチップが実装された基板という、極めて高価な仕損品を許容できる体力。これをクリアできるメーカーはそうそう無いでしょう。

後者について。適用する周波数帯を絞ればアンテナの数を減らすことが出来、それだけ機能に割り振ることも可能でしょう。ただし、キャリアや国単位で需要を切り捨てる必要があるので、販売数量はガクッと落ちることでしょう。

機能は絞られ、広く売れず、高い

つらつら書いてきたように小型スマホはスペースの都合上、割り切りスペックで薄利多売しなきゃ利益が出なそうなモデルになりそうです。しかし、広く売ることが出来ない可能性もある。

加えて、単価も結構お高めになるんじゃないかと思います。

というのも、電池やディスプレイといった購入品が完全に専用品での準備になるからです。他社や、自分たちの他のモデルで使われているデバイスを流用するなら開発費もかからず、ボリュームメリットで単価も下がりますが、専用に小型で作るとなると高くつくのは、自明の理ですよね。

つまり。高い上に割り切りスペック、そして売る場所が限られる。小型スマホって、今から開発しようとすると、そんなモデルになっちゃうのでは…というのが、僕の考えです。

小型スマホに求めてるもの

皆さんが小型スマホに求めてるものって、画面サイズが小さくて、他は今のスマホと同等のスペックで、価格も抑え目の物だと思うんですよ。それって、開発のハードルが高そうだなーってことです。もちろん金を積めば小型スマホ自体はできなくはないと思いますが…。ニーズに答えられるものに仕上げられるのか。

サイズ・スペースというのは、可能性だというのが、メカ屋として僕が日頃考えさせられていることです。

とはいえ、僕は単なる製品開発者。今頃、頭のいい研究者の皆さんが革新的な技術を開発してるかもしれません。中華メーカーとか、チャレンジングな端末を次々出してますしね。5G対応端末とともに、新しい技術が飛び出してくるの、期待してますよー!

こんな記事も書いています temcee.hatenablog.com 大型化が進む中では小型化の価値が光ってくるようになるなー、というのが最近の考えだったりします。