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【書評】炎上現場に見る『欠乏の行動経済学~いつも「時間がない」あなたに~』

時間がない。スケジュールは相変わらず押していて、検討は進んでいない最悪の状態だ。いまこのときの時間を稼ぐために後半のスケジュールを詰める相談をしなくては...。

めずらしくもない日常的な炎上風景。消耗していく現場。その真っ只中に読んだのが『行動経済学~いつも「時間がない」あなたに~』だ。

本著では心理学者と経済学者がコラボしてうまれた。欠乏が人の行動に与える影響について実験し、成果を記した本だ。欠乏するものはお金であったり時間であったり様々だが、欠乏している状態自体に問題があるそうだ。

トンネリング効果

トンネリング効果
欠乏すると、人は欠乏しているものに集中するようになる。

例えば直近でお金が不足している場合、その場をとりあえず凌ぐことに集中する。結果、借金をしてしまう。長い目で見ると金利の負担がかかってきて、より厳しい目に合うのが道理だ。しかしそういったことは見えなくなる。これが欠乏時のマインドセット、トンネリング効果だ。

炎上現場がその場しのぎの時間稼ぎ、後に問題となりうる急ごしらえの対策を行うのも、トンネリング効果だろうか。

処理能力への負荷

欠乏による処理能力の低下
欠乏すると頭の一部は常に欠乏しているものに占められる。

それ以外のことをするにも処理能力に負荷がかかった状態になる。決して能力が劣っているわけでなくても、十分にパフォーマンスを発揮できなくなる。劣った能力が人を貧困にするのではなく、貧困が人の能力を劣化させる。

炎上現場では日程が常に頭の中にちらつく。集中できない。そんな処理能力への負荷が、検討が進まない一端なのかもしれない。

ジャグリング

処理能力への負荷とトンネリング効果が合わさりつつも、何とか日程の目途を立てることができた。しかし肝心の対策検討の予算が無い。より悲惨な別現場に援軍も送らないといけない。次々起こりくる欠乏状態。とにかく今を凌ぐしかない。

そうすると対応はその場しのぎでさらに雑になる。後の予算を削り、援軍を何とかするためにより多くの工数を使い、また時間が不足する。欠乏が次々起こる、ジャグリングは欠乏状態における罠だ。

この負の連鎖を断ち切るにはどうすればいいのか?

まとめ マインドセットを理解し対処していく

「時間が無い」が口癖の僕にとって本著の内容は実感をもって受け止められた。納得できるよう多角的な実験を行い、欠乏により生じる事象がうまく言語化してまとまっている。

一度嵌まると抜け出すのが難しい欠乏の罠、対処するにはマインドセットを理解することと、何が欠乏を生むのかを知ることが重要だ。

トンネリングを避けるには、トンネルの外に引き戻してくれるものの存在が必要だ。
最初の欠乏を生むのはスラック、いわゆる余裕のなさである。

大切なのは意志に頼らない仕組みを作っておくことだ。

なるほど、確かにそうだ。

だが欠乏の最中、その仕組みを構築するのは難しいなぁ。「時間が無い」今日この頃...。