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熱はエネルギーの墓場、増していく放熱設計の重要性

最近の電気製品は小型化、軽量化が進みました。それによって身につけるものにも電機的な要素を付け加えてウェアラブルにしてみたり、とりあえずデータをとるために色んなものにセンサを入れてみてIoTと謳ってみたり、エレクトロニクスの幅が広がって面白いですね。材料や設計の技術進歩による効率化の賜物です。

しかし、そんな中で技術的にあまり進歩が見えないなー と思う分野があったりもします。放熱技術です。電子部品の進歩や回路設計のおかげでエネルギー損失を減らし総消費電力が低めに抑えられてはいますが、こと熱をどうにかする技術に関しては今も昔も大きな変化がないように思います。

熱はエネルギーの墓場

誰が言い始めたのかはわかりませんが、表題のフレーズはよく耳にします。電気を流すとそのエネルギーの一部は熱という形で損失になりますし、物理的な動作にしても摩擦熱という形で、やはりエネルギーは失われてしまいます。効率100%の機関っていうのはありませんからね。

熱は高温と低温部、つまり温度差があって初めて役に立つものですし、ちょっとした電子機器から排出されるような多少の温度差では大した仕事はできません。温度差を電気に変換できるゼーベック効果というものがありますが、数十度程度の温度差だと1mVの電圧も生み出せないでしょう。損失として産まれ、利用が難しい。だから熱はエネルギーの墓場と言われるんでしょうね。

ブレークスルーが無い放熱技術

 排熱を放置していると部品の消耗は早まり、電線の抵抗値が上がることで動作の不具合もあるでしょうし、人が触る箇所などは火傷の危険が出てきます。それをどうにかするための放熱技術ですが、冒頭に書いてあるようにあまり大きな技術進歩が見られません。

放熱の手段は今のところ、均一化して全体で放熱するか、1箇所に集めて空気や水で強制冷却するかでしょう。前者はサイズや用途の関係でファンが入れ込めないスマホやタブレットなどの設計思想で、後者はパソコンのそれです。

均一化にはグラファイトシートや銅板など熱伝導率の高い金属の板がよく利用されます。グラファイトは厚みや屈曲性、熱伝導率などが少しずつ改良されているものではあります。しかしブレークスルーと呼ぶほどの劇的な変化はありません。展示会で見たりメーカーから紹介されたりするものも、どこかで見たようなものばかりです。

強制冷却でメジャーなのは空冷ですね。高温部の熱を温度応答の早いヒートパイプで別の場所に移動させ、集めた熱をファンによる強制空冷で一気に放出してやります。ヒートパイプも薄型・小型など少しずつ改良が進み、最近では板状のベーパーチャンバーと言った亜種が出てきたりしていますが、新しい放熱のあり方を提案するようなものではなく、今あるものの延長と言ったところです。

高集積・高性能の先に放熱が律速になる

熱を放出するには表面積が必要です。放熱フィンなど、表面積を稼ぐためにギザギザした形をしてますよね?どんなにうまく熱を均一化させても、熱を一箇所に集めても、面積がなければ放熱量は限られます。それが今の放熱技術です。技術進歩により強度や電機的なものをクリアしていったとしても、この排熱をどうにかしない限りはどこかでエレクトロニクス製品は壁にぶつかっちゃうんじゃないか、というのを最近ひしひしと感じます。