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WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

強度という言葉は設計者的に曖昧で抽象的だ

設計

<まとめ>

・強度という言葉の中には多くの意味が含まれている

 →変形しにくさ・壊れにくさ・傷つきにくさ、人によって解釈が違う

・強度○倍などという数値を鵜呑みにせず自分の欲しいスペックについて謳っているか注視しよう

強度という言葉は曖昧だ

「強度アップだと?設計者なら具体的な言葉で語れ。」先日、同僚がレビューの場で強度アップという単語を発してしまい詰められている場面に出くわしました。強度という言葉は便利で、世間一般にも溢れています。材料を変えて強度を増したことで薄型化に成功しただとか、今までにない強度を誇る耐衝撃ケースだとか。そんな便利な言葉なのでついつい口にしてしまうのはわからないでもないけれど、強度って表す範囲が広くてフワッとした表現なのは確かでしょう。数値で語るべき開発者が開発の場で出すような単語ではないかもしれません。

強度が示すもの

強度と聞いたときに皆さんが思い浮かべるのは何でしょうか。壊れにくいこと?変形しにくいこと?それとも表面が固く傷つかないこと?どれも広義に解釈すれば強度と言えるかもしれませんが、それぞれ別物ですよね。実際にそれらを定量的に表す指標も、そのための評価も全く別物です。例として材料を引っ張って破壊までもっていった場合を見て、壊れることと変形しにくいことの違いを見てみましょう。

鉄をひたすら引っ張っていくと

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引張試験という評価方法があります。材料を破断までひたすら引っ張っていく試験で、加えている引張力と試験材のひずみ量(伸びた量を材料の長さで割ったもの)の関係性を得るために行われます。

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で、鉄系の試験材で試験を行ったときに結果として得られるのが赤線で示される応力ひずみ線図ですね。*1応力とは外力に応じて物体内に生じる力で、ひずみは前述のとおり材料の伸び(変形)を無次元化したものです。

最初の方は強く引っ張った分だけ沢山伸びるという関係性になってますね。途中の青線までひずみと応力が比例していますが、この領域の変形を弾性変形といって、引っ張るのをやめれば伸びが綺麗さっぱりゼロになる変形です。この領域での傾きが急であればそれだ大きな力でないと変形が進まないことを示します。つまり傾きの大きさが示すのは変形のしにくさで、この傾きはヤング率という定数で示されます。

青線を超えると応力がガクッと下がりながらひずみが大きくなります。引っ張っていくとある一点を超えたところで急にグニャーっと変形が進むということです。この点を降伏点といい、降伏点を超えた後の変形を塑性変形と呼びます。塑性変形したものは永久に変形したままです。ということで降伏点は永久変形しないギリギリの応力ということになります。

塑性変形に移行してからも引っ張り続けると試験材はまた変形しにくくなり、大きな力を加えなければひずみが進まないようになります。しかしそれも引張強さを超えるまでの話で、引張強さを超えた後は小さい力でもひずみが進むようになり、最後にはボキッと二つに折れます。引張強さは永久変形しつつも破断までは到達しないギリギリの応力ということになります。

変形しにくさ(剛性)

変形しにくさのことを剛性といいます。曲げたり押したりしたときに変形しないことを強度が高いと言っているとき、それは剛性が高いことを意味しています。

前述のヤング率という数値が剛性の度合いを示す1つの指標になります。もったいぶった言い方にしたのはヤング率以外に剛性率というものがあるからです。ヤング率が引張の変形しにくさを表す一方で剛性率はせん断力による変形しにくさを表します。とはいえヤング率と剛性率はある程度相関がある関係性なのでヤング率が高いほど変形しにくいものと言えます。

壊れにくさ

これについては降伏点と引張強さという二つの指数が出てきました。世間一般で壊れにくさを謳っているときに使われているのがどちらなのかは微妙なところです。昔iphoneが曲がりやすいと話題になった時期がありましたが、アレについては降伏点が取り沙汰されてましたし、その後の検証で3点曲げ試験みたいなのをやってるときには破断するまでガッツリやっていたような気がします。たぶん使う人にとって都合がいい方の値を使っているのかと思います。

ちなみに僕が設計の時に気にするのは降伏点の方です。設計として必要な形状が、永久変形することで失われてしまいますからね。

また降伏点・引張強さというのはじんわり力を加えたときの話であり、ほかにも落下による衝撃力となるとまた別の指標が出てきます。有名なのはシャルピー衝撃試験の値でしょうか。興味があれば調べてみてください。

ケータイの金属ケースについて

話は逸れますが、壊れにくさについて思うところをこの場で書かせてもらいましょうか。耐衝撃という名目で携帯用の金属ケースが売られていますが、僕はあれらに対しては疑問の目をもって見ています。確かに落下において点で受ける衝撃を面に分散して本体に伝えることで外装部品の破損については強くなるとは思いますが、衝撃のエネルギー自体は部品の変形で吸収することに変わりはありません。ケースがある程度やわらかい素材ならいいのですが、ケースが固く、本体外装も壊れない場合は衝撃エネルギーが本体内部の部品を揺らします。ケースそのものによる重さも増えている分、内部部品の破損には不利になるのではないかなと思うのです。後は電波的なもので、WifiやLTEの受信の際に金属が外部にあることはマイナスにしか働かず、本体外装との間に傷防止のための樹脂などがあると疑似的にコンデンサとなる可能性もあるのかと思います。

傷つきにくさ

閑話休題。引張試験では散々無視していましたが、傷のつきにくさを強度と言ってることもありますね。これは表面硬度によって決まります。硬度を表す指標は数多くありますが、メジャーなのがビッカース硬さで、試験しやすいのが鉛筆硬度ですかね。鉛筆試験は単純にある硬度の鉛筆でひっかいても傷つきませんよ、という試験で9Hとか2Hとかはそのまま鉛筆の硬度を表します。9Hとか謳っているものをみると実際に試してみたい気がしますね。

まとめ

強度といっても色々な指標があること、わかっていただけたら幸いです。強度○倍!という文言を目にすると無意識に信頼してしまいそうになりますが、世の中には硬いけど壊れやすいものや、変形しにくいけれど傷つきやすいものなどがあり、強度の指数すべてが比例関係にあるわけではありません。自分が欲しい強度のスペックとは何なのか、それを認識したうえで強度という言葉とうまく付き合っていきましょう。

*1:アルミとか銅とかだと線の推移が変わります。