WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

シンクロナス・テクノロジは古い設計者を陳腐化するかもしれない

最近シーメンスのNXを使い始めました。

僕は長い間Pro/E(Creo)を使っていて、使い勝手の違いから戸惑うところは多くありました。とりわけ、NXの特徴であるシンクロナス・テクノロジは設計に対する心構え・アプローチのレイヤーで価値観が合わず、機能としては使いこなしができるものの、僕の中にいる「古い設計者」の教えが引っかかって、存分に使い切れていません。

従来のCADと古い設計者

従来のCADは3DCADだとしてもドラフター製図の延長にあります。
スケッチで二次元の絵を描いて、それを押し出して形状を作りこんでいく…Pro/EはそういったCADですし、プライベートで使っているFusion360も基本は同じです。スケッチありきという点で、製図の延長というわけです。

この手法を長く続けているもんですから、考え方も2次元が基準になってきます。加えて、若い時に僕に設計を叩き込んだ世代は2次元CADの世代で、もう完全に2次元脳…そういう上司、先輩を見て育ってきた僕も、設計の根底は2次元で考えています。扱えるツールの次元は変わりましたが、中身は古い設計者といえます。

シンクロナス・テクノロジとは

で、シンクロナスです。NXでは3次元の形状をそのまま動かしたり、寸法を変えてみたり、自由に切り貼りができます。

Creoでもデータの作り方次第で、ヒストリーの編集から同じような挙動をさせることはできます。とすると、シンクロナスの利点は何なのでしょうか。それは「より複雑な形状も操れること」、「ヒストリーの無いモデル(stepなど中間ファイルから読み込んだもの)も操れる」事でしょう。

シンクロナスはヒストリー型の機能ではあるものの、ヒストリーに縛られず、より自由なモデリングが可能です。

NXでの設計検討

NXでの検討はイチから形状を作らない方が早いです。既存の形を持ってきては必要なところだけ切り貼りし、既存の形状で対応できないところを少しずつ変更していく…自由自在なモデリングを可能とするシンクロナスならではの手法です。ひとまず形状を作ってみて、出来上がった形状にFBを加え頻繁な形状変更を行うことで、最適な形状を目指します。

昔ながらの設計方法は、そこまで手を動かすものではありません。二次元で絵を描いてみて、有力なアイデアについて詳細な寸法を考察して、そこまで頭で描き切れて初めてモデリングに移ります。「古い設計者」からすると、これこそが正しい設計の姿なんです。

ただ、設計の手法は本来、正しいも間違いもないのです。得られる形状が最適なら、それが良い設計手法です。

そして、まだ触り始めて間もない僕からしても、シンクロナスでのモデリングは早い!二次元を頭で描くよりも早く、3次元的な形状が作れてしまうのです。この速度は、設計検討の在り方をガラッと変えてしまうのでは?

古い設計者の言い分

何でも機械に頼りすぎると、設計者としてのスキルが落ちるのでは?という懸念もあります。メカエンジニアは形状を作るときに何らか意味を込めるもので、形状が簡単に作れるようになると絵作り優先で、深い考察なくモデリングが進んでしまうんじゃないか…そのあたり、僕がNX使ってて気持ち悪い点ですね。

ただソロバンのスキルが電卓により無用のものになったように、古き設計スキルは陳腐化し、無くても困らないものになるのかもしれません。

僕はひとまず、NX的な検討手法になじむよう努力していこうと思います。技術は進歩して在り方が変わるものだし、人間は成長するものです。遠くない未来、古い設計を知らない若い世代が台頭してきたとき、「昔は良かった」なんてノスタルジーに浸るのではなく、肩を並べて開発していきたいですしね。