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一眼レフメーカーの苦難、【7731】Nikonの敵はスマホかミラーレスか

最近は専ら東芝が話題ですが、ひっそりとニコンも苦しそうです。

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経営に引きずられるように開発の方も調子が崩れてきているようです。昨年のCP+にてお披露目されたDLシリーズは発売中止となりました。分野は違えど開発職に携わる者として、中の人達の壮絶だったであろう業務に対するストレスと、それが水泡と帰す無念さには同情せずにはいられません。

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カメラは長らく「ものづくり最後の砦」とされてきました。緻密な光学設計とそれを製造する能力はまさにハードウェアの極地であり、目に見えるものでありながら真似できないものでした。しかし今、その砦が破壊されつつあります。スマホだけが主な原因なのでしょうか?CIPA(カメラ映像機器工業会)にデジカメの出荷推移のデータがありますので、それを覗きながら考えてみたいと思います。

デジカメの出荷は激減するもレンズは堅い

スマホにカメラのシェアが食われている、と言われて久しいですが実際のところどんな感じなんでしょうか。カメラとレンズの台数・金額の推移をグラフにしてみると、その食われっぷりが実感できます。

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スマホの普及期とデジカメの台数の激減期が見事に被っていますね、恐ろしさを感じます。しかしこのグラフにはカメラメーカーにとっての希望があります。レンズが堅調であることです。

スマホへの移行は主にライト層のお話で、一眼レフやミラーレスと言った交換式レンズを用いる趣味層は変わらずカメラを使っている、というのがレンズの台数・金額の推移から推測できますね。私自身はレンズの設計をやったことはありませんが、液晶やセンサー、チップなど外部から購入するデバイスの多いカメラ本体と違い、レンズも筐体もほぼ内製で作るものだと思うので利益率は高そうです。こちらが堅調なうちは、まだまだカメラはビジネスになるのではと思います。

またカメラ本体も台数で見ると2010年から2015年で三分の一程度になっていますが、金額ベースだと同じ期間で半分程度の減少に収まっています。売れるカメラの単価が上がっているということですね。次にこの数値をもうちょっと細かく分解してみてみましょう。コンデジとレンズ交換式(一眼レフ・ミラーレス)の比較です。

ライト層はスマホ、ヘビー層はレンズ交換式へ

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コンデジの落ち方が激しいです。しかしレンズ交換式については大きな落ち込みは見られません。これが先のグラフで台数にくらべ金額ベースでの落ちが大人しくなっている理由です。コンデジに比べれば一眼レフやミラーレスと言った、いわゆる「良いカメラ」の方が単価が高いですからね。

そして単価の上昇は往々にして利益率の上昇を伴います。総売上を減らしても利益を確保していけばビジネスは継続できるんですよね。カメラメーカーはライト層をスマホに食われながらも、利益率のいい高付加価値商品をヘビー層に売ることでなんとか持ちこたえていると言った所でしょうか。

けどそれだけだとニコンの不調は説明できません。一眼レフを売り、レンズも売っているニコンがなぜ窮地に立たされているのか。それを理解するにはさらに細かく内訳を見る必要があります。レンズ交換式カメラには、一眼レフとミラーレスがあるのです。

小ネタ)一眼レフとミラーレスの違い

ここでひと休憩。皆さんは一眼レフとミラーレスの違いをご存知でしょうか?ユーザーどちらもレンズを交換することで、画角や倍率、解像度などの違う多彩な絵を撮ることが出来るカメラです。ユーザー視点でざっくり特徴をまとめると次の通りです。

一眼レフ
・ファインダーが光学式
・動物のように不規則かつ動きの早いものに強い
ミラーレス
・ファインダーが電子式(液晶や有機EL)
・小型かつ軽量
・(物によっては)オートフォーカスが遅い

この違いは内部構造にあります。

一眼レフはミラーやプリズムを使い、レンズから入った光をファインダーに送ります。ミラーレスは一度光を電気に変換して、ディスプレイに表示します。変換・表示という作業が入るので、その分遅延が発生するために動物のように不規則で早いものが苦手なんですね。

ただし、一眼レフは写真を撮る時にミラーを動かしてレンズの光をセンサーに届くようにする必要があります。ミラーを動かす構造と、そのスペース分だけ筐体が大きく、重くなってしまうわけですね。

落ちゆく一眼レフ

閑話休題。一眼レフとミラーレスの出荷推移を見てみましょう。ミラーレスは2008年にパナが第一号となる「LUMIX DMC-G1」を発売しました。そんな比較的若い分野なので統計も2012年からとなります。

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 一眼レフの落ち方が顕著ですね。ミラーレスも伸びてるとは言い難いですが、現状維持程度はできています。一眼レフユーザーがミラーレスに流れている構図が想像できます。

キヤノンやニコンといった一眼レフメーカーは、ミラーレスも作ってはいましたが、消極的でした。これらのメーカーが強いのはこれまで出してきたレンズラインナップの豊富さです。レンズのマウント(取り付け部)や電気信号の出し方などはメーカーにより固有であり、同じマウントのものでしか使い回せません。だから一度ユーザーを取り込んでしまえば囲い込めるんですね。

しかしミラーレスだと、一眼レフと構造が違うのでレンズをそのまま使い回すことができません。これまでのレンズ資産が使えないのです。だからキヤノンもニコンもアダプターを噛ませる前提でミラーレス用のレンズを作らなかったり、今のユーザーとかち合わないよう、センササイズの小さいミラーレスを作るに留めたりとしてきました。個人的には小型・軽量が特徴のミラーレスに、アダプターや一眼用レンズなど大型・重量のものを載せるのは理にかなってないと考えています。

その間にパナソニックやオリンパス、ソニーなどがミラーレスに注力して一眼レフユーザーに認められるレベルまで発展させ、レンズラインナップにも気を使って来ました。今ではフルサイズのセンサーを備えたミラーレスは珍しいものではなく、オートフォーカスも像面位相差を使ったものなら一眼レフに対抗できるでしょう。その結果が上記のグラフです。

ユーザーがミラーレスに移行することでレンズの売上も奪われることになります。スマホの侵略は画質で対抗できたニコンですが、ミラーレスへの移行の波には抗えなくなってきているようです。

画像処理が台頭する未来

ただしミラーレスは安泰か?というとそうでもないのかなと思います。ミラーレスを殺すもの、それはやはりスマホ…というよりソフトでしょう。

スマホに対するカメラの利点は、物理的にたくさんの光を取り込めること、これに尽きます。だからこそ暗所に強かったり、短いシャッタースピードでパリッとした写真を撮れるわけですが、これらは今後画像処理の補正、類推で何とかなっていくのではという気がします。

スマホは過当競争の分野です。最近は基本スペックが上がり単純な性能で計算速度で勝負できなくなってきたのか、カメラ性能で差別化を図るものが増えています。カメラを複数取り付けて深度を測れるようにし、背景ボケなどで立体感を出せるものもありますね。

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撮ったその場でSNSに共有できるスマホは、撮影との親和性が高いです。カメラより高い計算能力を武器に、スマホは今後カメラ性能を押し上げてくるかも知れません。

となるとカメラメーカーも新しいものを見つけていかなくてはならないでしょう。全天球カメラのThetaや、アクションカムGoPro、ドローンなどはその可能性の1つでしょう。

temcee.hatenablog.com

Thetaはいいぞ

ニコンの株価と指標

せっかくなので載せておきましょう。ここ1年の株価の動きと、主な指標についてです。毎度のことですが、下記は僕が私的に拾ってきた数値なので、実際に投資を行う際にはご自身で確認をお願いします。

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(Nikon Corp: TYO:7731 quotes & news - Google Finance)

銘柄コード 銘柄名 株価 PER PBR EV/EBITDA ROE 自己資本比率 配当利回り
7731 (株)ニコン 1,683 -74.08 1.25 7.19 -1.69% 57.00% 0.95%

棚卸資産の整理による損失で今期はマイナス予想です。よってPER/ROEは無視してください。

自己資本比率は依然として高く、財務的にはまだ余裕があります。だからこそ痛みを伴う構造改革を進めているんですね。追い込まれてあれこれ分解していくよりも健全な経営だといえます。

EV/EBITDA*1もさほど低いわけではありません。カメラの収益力は下がってきていますが光学と製造の面では依然として高い技術を持っているからでしょう。ほかにこの技術を生かせる分野があるといいんですが。

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第三四半期のセグメントごとの業績です。ニコンは大企業なので複数のセグメントを持っていますが、カメラは主力の1つです。その競争力に陰りが見えた今、リストラなどで構造改革を進めています。ただし効率を改善するだけでは成長を望めず、新しい柱を見つける必要があるでしょう。それは大変に困難なことです。次の一手をどうするか注目です。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

僕自身はα6000ユーザーです。ジュエルミネーションは明日まで。

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今回も余裕があればミラーレス勢と一眼勢の業績推移を持ち出して比較したかったのですが、工数不足です。

*1:EBITDAは15年度の数値を使用