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WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

長寿時代は呪いか祝福か…「LIFE SHIFT(ライフ シフト) 100年時代の人生戦略」を読んで

ロンドン・ビジネススクール教授、リンダ・グラットン氏の著書です。以前「WORK SHIFT」という本で、将来変わりゆく働き方に対して主体的にシフト(変化)していこう、といった事を書かれていましたが、今回はワークから範囲を広げライフ(人生)をシフトさせていこうという内容です。

本著によると今の時代の若者達は半数が100歳を生きると予測しており、その長い人生を「贈り物」として希望に満ちて過ごすための方法論を説いています。

崩壊しつつある3ステージの人生

かつて、人生は"教育・仕事・引退"の3ステージで成り立っていました。若いうちに多くをインプットし、それを生かして仕事をこなし、若い頃のインプットが賞味期限を迎える頃に引退して余生を過ごす…そんな人生です。

しかし年々伸びてゆく寿命と機械化やAI化といった技術の進歩はそういった3ステージの人生を崩壊させていきます。前者による問題は年金制度の現状を見ると想像に難くないでしょう。後者は、教育により会得したスキルの賞味期限を早めます。今までと同じように人生を送ろうとすると、老後の資金という面で歪みが生じてしまうわけです。グラットン氏はそれぞれ世代の違う3人の仮想モデルを用いる事で3ステージ人生の崩壊と、それぞれの世代の人の振る舞い方のモデルケースを紹介しています。

新しいステージの出現

3ステージ時代は皆が同じような人生を送っていましたが、100年時代では人によってそれぞれ違う道を行く、いわゆるマルチステージな生き方をするようになります。そこでは教育・仕事・引退以外に次のような選択肢が現れます。

エクスプローラー:身軽に動き、自分や世界について発見をしていく

インディペンデント・プロデューサー:一時的なビジネスを生み出す

ポートフォリオ・ワーカー:多方面のスキルを生かしてマルチに働く

100年時代では伸びた寿命だけ長く働くことになり、3ステージ人生の延長では金銭・活力・人間関係などあらゆる面で無理が生じます。自分が興味を持ち情熱を捧げられるモノを探したり、金銭ではなくスキルや人脈を築くことの重要性が今後増していく事で新しい選択肢が現れてくるわけですね。

無形の資産の重要性

お金や家などの有形資産に対して人脈やスキル、自身の評判などは無形資産とされ、それらに対する投資をしていくことの重要性が度々語られています。スキルは時代時代によって最新の物を仕入れる必要がありますし、人脈も自分に近しいものだけでなくあまり縁のない分野へ飛び出して多様性に富んだネットワークに触れることが求められています。そうして得られる無形資産は激変の時代に対する備えになり、自身の働き方を変えるための「変身資産」になるわけです。

待っているのは厳しい現実

グラットン氏は長く伸びゆく寿命を「贈り物」とし、上記のような人生の変化を「人が主体的かつ柔軟に自分らしく生きる事が出来るようになる」というかのように、大変ポジティブに書いています。お金の面だったり病気などの不確実性についてもきちんと触れながらも、なんとか希望を持って人生を送れるようにとの配慮が文章からにじみ出てくるようです。

だけどそれでもやはり現実は厳しいと言わざるを得ません。

無形資産を築くには時間やお金などのリソースが必要であり、それは今までレクリエーション(娯楽)につかっていたものを自己のリ・クリエーション(再構築)に使うという事です。確かにそれは有意義な事には違いないでしょうが、そうやってひたすら自分を変化させ磨き上げていく事は並大抵の事ではありません。これまでの時代、そこまで出来る人達はいわゆる「エリート」クラスの人かと思いますが、これからはそれを皆に求められていくわけです。

リスクに関しても問題があります。人は生まれながらに不平等なものです。一定期間を低収入で身軽に過ごす事は誰にとってもリスクを伴いますが、生まれの関係で既に十分なお金や人的ネットワークを持つ人と普通の人ではその大きさは全く違うものとなります。失敗できる人はどんどんリスクを取り主体的で個性的な人生を享受できるかもしれませんが、そうでない人はどうなるのでしょうか。

さらに選択肢こそ価値を持つ100年時代では選択肢が失われる行動に対して後ろ向きになりがちです。その最たるものが出産…子供の誕生です。子供が生まれると人生の一部は確実に子供のものになります。子育ての間にスキルや人脈は失われ、それにより労働の幅が狭まるとすれば出生率は今よりも下がっていくことでしょう。そんな風潮が続けば、人類は衰退していく一方です。

変化は待ってくれず政府の動きは鈍い

グラットン氏は丁寧ですね。上記の問いかけに対する回答も著書には書かれています。内容を全部話してしまうのはよろしく無いので、「ポジティブな回答」だったと述べるにとどめておきます。

どれだけ未来を悲観しても、現状に対する文句を並べていても何も解決しません。今の政府が少子化や高齢化に対する諸問題に対処しきれていない事からも見て取れますが、政府の動きは遅く、それでも変化は加速していきます。

要は自分が変わるしか無いわけです。

そういった事を考えていく上で、本著は示唆に富んだ内容が多分にあります。長い人生、長期的な視点を持って自分の生き方を考えていかなくてはなりません。この本は、今まで短期的な振る舞いにしか着目してなかった僕に、将来について考えるキッカケを与えてくれました。内容としては意識が高いといいますか、エリートといったイメージが拭えないところもありますが、長い時代を生きる今の人…特に若者にとっては将来を考える上で参考になる良著でした。

 

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temcee.hatenablog.com

イノベーションのジレンマについて、日本企業を例にして馴染みやすく説明している本です。