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WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

効率化で残業分の業務が定時内でこなせるようになるわけがない

労働

労働環境の改善が急ピッチで進んでいるように感じます。特に長時間労働のあたり。僕としては残業手当が出るんならある程度の残業は有りですが、早く帰れるなら早く帰れるなりにいい事は沢山あるので、(長時間労働の是正は)良いんじゃないかなーって感じです。

ただ気がかりなのは仕事の進捗です。経営者が残業を減らすと言う時にセットになって出てくるのが「効率化」というマジックワードです。日本企業には無駄が多い、だから無駄を省く事で労働時間を短縮しつつ長時間労働分のアウトプットを確保する。その言葉、どこまで本気なんでしょうかと不安になります。

月100時間残業してる人に無駄な時間があるのか

僕は99時間(調整後)の残業を経験した事がありますが、その時に無駄な時間があったかと言われるとNoです。開発機種のクライテリアと納期の板挟みの中、ミーティングや定例など全てをリーダーやマネージャに任せて、自分の業務に注力していました。その当時に「効率化して早く帰れ」と言われていたとするとパンクは確実、自分の力ではどうしようもなかったでしょう。効率化、口にするのは簡単です。しかし、下の者に「効率化」と唱えてもストレスが生まれるだけでしょう。

本気で残業を減らし、なおかつアウトプットも維持をするというなら相応の代償が必要です。

代償その1:お金

設備やシステムを改装する、プロジェクトにかける人員を増やす。そういったトップダウンで金をかけた大掛かりな投資に取り組む事が出来れば着実な「効率化」がなされることでしょう。そのために必要なのは、お金です。投資分したお金が効率化による人件費削減などで回収できるのならいいのですが、それほどの回収が見込めない場合はやはり業績に悪影響を与えます。また人員追加はアウトプット量と比例関係にはありません。ソフトウェアプロダクト管理の名著「人月の神話」に「ブルックスの法則」というものがあります。再配置そのものに費やされる労力とそれによる作業の中断、新しい人員の教育、追加の相互連絡という3つの要素で必要となる労力が増加し、結果としてプロジェクトが遅れる要因になるというようなものです。これはソフト開発以外についてもあてはまるかと思います。

では他にどのような代償を払えばいいのでしょうか。

代償その2:質

仕事の質、僕は最終的にこれを妥協する必要があると思ってます。残業分のアウトプットを維持する効率化なんてものはそうそうありません。

質を下げるというのは適当な仕事をする、というわけではないです。

例えば会議。決め毎のために多くの情報と責任分散のための人数が必要とされるものです。全体の労働時間が減ると集められる情報も減り、業務を多く抱える人の参加率が下がる事で会議に集まる人数も減る事でしょう。そんな状況ですから、くだされる決定の精度は必然的に下がります。

例えば開発における評価。市場で問題が出るたびにノウハウとして再現試験が確立され、問題の再発防止のために以後の装置開発の度にその評価が行われます。それらは時とともに積み重なり、それをこなすには多大な工数が必要になっていくのですが、時間が限られてくるとすれば流用箇所などの重要度の低い評価を行わない決断が必要となります。もうちょっと上流の話ですが、「変更点/変化点」に着目するDR(デザイン・レビュー)である日産のQuick DRと似た考え方です。評価とは設計者も気付けてない欠陥を洗い出すために行うので製品品質を考えると良い事ではないかもしれませんが、そこをあきらめるのも1つの決断です。

上記のような、これまでより質を下げる決断を労働者が出来るか?またそういった仕事の仕方を経営側が受け入れられるか?その辺りの意識改革無しに働き方の改革は無いでしょう。

代償その3:贄に捧げられる中間管理職

お金をかけない、質も落とさない。両方やらずして労働時間を減らすとなると、必ず歪みが生じます。その歪みはどこに向かうかというと、管理職…それもプレイヤーにもなれる中間管理職ではないでしょうか。

管理職は基本的に労働時間に関する決まりが適用されず、時間外労働という概念から開放されます。それ故に会社が見た目の残業時間を減らすには管理職に仕事を振れば良いのです。これは何も直接的に振らずとも可能です。

管理職自身が管理するプロジェクトの進捗が悪い場合、最終的に責任はその管理職が負うことになります。そうなれば自身の収入に関わりますし、そもそも管理職に上がる人は会社の利益に対する真剣度が一般社員のそれより高く、なんとかしようとする傾向が強いです。部下のマネージで何とかなる範疇ならいいんですが、それが能わない場合は頑張ってしまう人が多いだろうな、というのがここ7年くらいでいろんな上司を見てきて感じた事です。

戦うべきは想像上の顧客

質の高いお仕事は誰のため?それはもちろん顧客です。それも現実の相手ではなく、みなが想像している顧客です。

「お客様のため」サービス精神旺盛な日本のサラリーマンはきめ細かいお仕事をしてきたものです。そこまでしなくても、と思えるほど日本人は顧客のことを考えています。しかしそれは過剰品質を招きがちです。良いものは確かに良いものなんですが、そこだけを追求していくと、労働者の負担は増えて行く一方です。

想像上の顧客ではなく現実の顧客を見据え、本当に必要な仕事の質について考える時が来ました。小手先の「効率」ではなく、仕事の根幹を見直さなくては、日本人の残業体質は変えられないでしょう。

 

こんな記事も書いています。 

temcee.hatenablog.com

 画一的に休めーって言うんじゃなくて、ガンガン働きたい人は働かせてあげれば良いのにと思います。