WICの中から

機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

メイド・イン・ジャパンの品位を支えるアイツ

日本で設計を行う場合、製品には品位が求められます。
品位とは何なのか?具体的にはボタンの押し感だったり、外観の品質の高さだったり、全体の剛性感だったり…細かいところの作りこみですね。神は細部に宿るというやつです。

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外観の隙間から覗くモノ

品位を重視する設計で厄介なのが外観部品の割り線です。3D上でゼロ隙間で設計していても実物はそうもいきません。部品自体の出来だったり、組立のズレだったり、イヤでも隙間は開いてしまうものです。この隙間から内蔵物、配線や基板、板金なんてものが見えたら品位エマージェンシー、メイド・イン・ジャパンの危機です。
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ヒンジ軸のキラ見えに対するリーサルウェポン

社会人一年目、僕はこの品位エマージェンシーに見舞われました。ヒンジの軸がチラッと見えてしまう。と余計な事しか言わない品証部門からクレームが入ったのです。実使用状態では見えない箇所、粗探ししてないと指摘されない場所。しかし品証からのクレームは対応必須です。

対応することは決まった、ではどうするか?場所的に見えなくするのは困難、塗装をすると耐久性が落ち、費用も歩留まりも悪化するし、実使用に影響ないレベルのチラ見えでそこまでするのは大げさ…。悩む僕に上司が出した指示は衝撃的でした。

「その辺で売ってる油性ペンを全種類買ってこい」

マジかと心で呟いたのは、いまでも覚えています。

ラインに投入されるリーサルウェポン

チラ見えするヒンジに購入してきたそれぞれの油性ペンで色付けがなされ、急ピッチで耐久・環境信頼性試験が行われました。1番信頼性の高いペンを選別するための、比較試験ですね。試験の結果が分かるころには次の試作組立が近づいており、上司と僕は組立工場へ飛びました。一番成績の良かった油性ペンを大量に抱えて。

工場に着くなり作業着に着替え、上司ともども組み立てライン入りします。
「俺の塗る範囲をよく見て同じように塗れ」
そういって流れてくるヒンジにひたすら油性ペンで着色を施す上司…なんとも高単価なラインがあったものです。

そうして僕と上司が塗りに塗りまくった油性ペンヒンジは品証の皆様にも好評で、見事量産でも油性ペン対応が決定と相成りました。
製造業ってスマートで自動化で凄そう!という甘えたイメージを持っていた一年目の僕が「あぁ、社会ってこんなものなんだな」と大人の階段を上った瞬間です。製品開発は泥臭く現場主義でヤケクソなものなのです。開発職を考えている学生は、そのことを念頭に置いておいた方がいいですよ、っと。

余談ですが、最近その製品を確認すると油性ペンの着色は普通に落ちてました。まぁ、焼き付けせず金属に塗ってもそんなもんです。

会社を変わっても活躍するアイツ

こんな狂った対策をするのはココくらいだよな、と思っていましたが、転職した先でも板金の端面見えやフレキに対して普通にタッチペン処理が行われていました。実際のところ油性ペンでのチラ見え対策は日本の製造業における伝統で、僕の方が狂っているのかもしれません。

製造業はモノを作ってなんぼです。製品品質は大体が設計時点で決まってしまうものですが、それで対応できていない項目に対して「どう対応して、やりきるか」と考えるのが日本メーカーの特徴かなと思います。その点については、日本メーカーは独創的だし滅茶苦茶なことも平気でやります。

ただ、製品開発において細部の作りこみは本質でないでしょう。そこに金や工数をかける前にもっと本質的なところに目を向けて、そこをやり切るために細部を切り捨てる勇気を持つことも必要なのかなぁと思ってます。

とはいえ、設計者たる自分にできるのはハードの質を高め製品の魅力を上げることだけです。今後もチラ見え対策の油性ペンとは仲良くやっていきます。(頼らなくていい設計をしたいものですが。)