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鉄、身近過ぎるチート金属

設計者たるもの、自身が用いる材料の性質をよく知っていなければいけません。そんなわけで最近、大学院を修了して以来ひさしぶりに、鋼鉄材料の勉強をしています。鉄系の材料は、モノづくりをする時にもっともお世話になる金属でしょう。

鉄の勉強をすればするほど、この金属の持つポテンシャルの高さには驚かされます。安い上に、使用環境に応じて対応できるフレキシビリティがあるのです。身近でありふれていている素材ではありますが、皆さんは鉄の凄さをどれくらいご存知でしょうか。

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サガフロ2より折れたギュスターヴの剣です。この作品では術を遮断できるということで鉄(金属)がフィーチャーされてましたね。術が使えないギュスターヴ公が、鋼鉄によって返り咲く姿にカタルシスを覚えた人もいるのでは?

古代から現代まで利用され続ける鉄

金属業界といえば「鉄」「非鉄金属」で分類分けされるほど、産業界における鉄の流通量は圧倒的です。この、鉄という素材のプレゼンスの大きさは現代だけの話ではありません。

人間の手で鉄が利用され始めたのは紀元前の世界にまでさかのぼります。製鉄技術の普及は紀元前の25世紀ごろと考えられていますが、それ以前の時代の遺跡からも鉄片は発見されています。そんな古代から現代に至るまでの何千年という期間において、鉄は武器・道具、乗り物、そして建築物に至るまであらゆるものに利用され続けています。

現在、鉄以外のメジャーな金属にアルミニウムがあります。アルミは、発見が1782年で、大量生産が可能になったのは発電所が発達する20世紀に入ってからです。鉄と比べると、まだまだ歴史が浅いですね。

なぜ鉄は偉大なのか

科学の進歩とともに多くの材料が発見・開発されてきました。そんな中で、なぜ鉄は長きに渡って広く利用され続けているのでしょうか。鉄の持つユニークさとして、下記の特徴があります。

・大量に存在かつ精錬に必要なエネルギーが少ない

・合金化により多様な性質を得る

・熱処理により多様な形態を持つ

・室温で強磁性を示す数少ない物質である

・降伏点が明確である

大量に存在かつ精錬に必要なエネルギーが少ない

これが示すこと即ち、コストが安いことです。アルミと比較で見てみましょう。

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(引用元:アルミニウム価格の推移 - 世界経済のネタ帳)

大体1kgにつき200円前後ですね。これに対して、鉄の値段はどの程度かといいますと、日刊産業新聞の鋼板の項を見ると、1kgにつき60円強といったところです。鉄は安いんです。

鉄のコストの低さはどこから来るかというと、まず地球上に沢山あること、次に精錬に金がかからないところです。

クラーク数をご存知でしょうか?地表付近にどの程度の割合でその元素が存在するか、推定した値です。鉄のクラーク数は4.7%で、4番目に位置しています。酸素を先頭に、ケイ素、アルミニウムと続いて、地表で4番目に多く存在する元素、それが鉄です。

アルミは鉄よりも沢山存在するじゃないか!という声もあるかと思います。その点については精錬のコストが効いてきます。精錬とは鉱石から不純物を除去して金属を取り出す過程のことです。鉄の精錬は高温を保持できれば可能で、大量の電力を必要とするアルミよりも容易に精錬できます。この精錬のハードルの低さから、コスト面の優位性もさることながら、古代から利用され続けられることに繋がっています。

合金化により多様な性質を得る

鉄は合金の種類が豊富です。分類の仕方は用途だったり性質だったり成分だったりと様々です。なんにせよ、鋼とついているものは、すべて鉄の合金です。耐高・低温、耐薬品、耐疲労…などなど、用途によって添加元素を変えて対応できる、その柔軟性の高さも鉄の魅力です。

鉄に加える元素として一番有名なのは炭素です。炭素の含有率の大小によって硬くなったり、靭性をもったりと性質が大きく変わってきます。硬さが必要な工具には炭素量の多い鉄を、衝撃が加わる物には炭素量を減らして粘り強い鉄を、といった塩梅です。後述しますが、熱処理時の挙動についても、炭素の含有率によって変態温度や内部組織に違いが生じてきます。

炭素以外のものを添加した合金としては、クロムを多く含むステンレス鋼が有名ですね。クロムは空気に触れると酸化被膜を作る性質があり、この膜がステンレス鋼を錆などの腐食から守ります。だからシンクみたいに、水回りで腐食しやすいところに使われるわけです。そんなステンレス鋼、内部組織の違いにより大きく5つに分けられますし、そこからさらに枝分かれしていきます。鉄合金の1つをとっても、そこから多くの分類が見られるあたり、鉄合金の多様性を伺い知ることができます。

熱処理により多様な形態を持つ

鋼への熱処理として「焼入れ」「焼きなまし」「焼きならし」があります。それぞれ高温保持した後の冷却速度に違いがあり、鉄を固くしたり、やわらかくしたりします。刀鍛冶が熱した鉄をカンカン叩いた後に、水につけて冷やす行為、あれは表面の鉄を硬くするための焼入れで、熱処理の1種だったんですね。

鉄は温度によって異なる内部組織になります。

物体というのは安定する組織に遷移していくものです。温度が上がることで、もしくは炭素の含有量の大小によって、安定した組織形態は変化していきます。スキマが多く炭素を取り込める形態になったり、炭素との化合物を作ったりなど、条件により形態はさまざまです。

熱処理は前述のように冷却速度に違いがありますが、これは「高温で安定する組織を無理やり常温に戻す」もしくは「高温域からゆっくり冷やすことで安定した組織に整列させる」ことを意味します。それによって材料の性質が変わるわけです。

詳細が知りたい人は下記WikipediaのFe-C状態図を見て頂ければと思います。

鋼 - Wikipedia

室温で強磁性を示す数少ない物質である

要は磁石にくっつくし、磁石になるということです。この性質を持つ物質は、鉄以外にコバルト、ニッケルだけです。意外と少ないんです。

磁力の力はあらゆるところで利用されています。Mac Bookのコネクタで吸い込み用途で使われていたり、磁気センサーに利用されていたり、HDDや磁気テープなどのストレージ用途や、モーターにも使われていますね。

物を動かす選択肢として、物理・熱以外の方法が気軽に取れるというのは、ありがたいことです。

降伏点が明確である

どのくらい力を加えると永久変形が起きるかが、はっきりしているという意味です。

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上のグラフは、鉄材を引っ張って破壊させるまでの変形挙動です。力を加えはじめの、弾性変形のエリアでは、力を加えることをやめると変形が戻ります。降伏点を越えなければ、変形しても元通りになるというわけです。

アルミではこのような明確な降伏点は存在しません。弾性変形と塑性変形が同時に進行していきます。アルミを力が加わるところに使用する場合は、そういった変形が生じることを前提として設計しなければいけません。

終わりに

鉄の持つ魅力を簡単に触ってみました。

鉄の学問は深く、突っ込んだ話になると大学院や仕事で触れている僕でも説明しきれないところもあります。それこそ、新日鉄やJFEといった「鉄の専門家」でなければ分からないことが山ほどあるでしょう。

それほど、鉄というのは高いポテンシャルを持った素材です。普段身近にあって気が付きにくい「鉄」のすごさ、少しは伝わっていましたら幸いです。

 

こんな記事も書いています。

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どこの部品がどんな素材で作られてるのか、気になるのも設計者あるあるですね。

ですが、見ただけではさすがに素材の詳細までは分からないです。

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 設計者視点で見た、国ごとの工場の違いです。