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機構設計者が株式投資や育児に奮闘するblog

【書評】「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム

深圳で16年もの間、製造業に従事してきた藤岡 淳一氏の著書です。
深圳が発展してきた歴史や、そこで出来上がった文化・エコシステムを実体験を交えて書き上げてあります。長く現地に浸かったからこそ書ける泥臭くユニークな体験談から製造業あるあるな内容など、世間では耳にできないような面白い話がたくさん散りばめられています。著者の経歴もぶっ飛んでいますが、それ以上に破天荒な深圳の魅力が存分に書かれています。

ところどころ日本の製造業との対比や、最後には日本の製造にかかわる人へのメッセージもあり、日本で設計をやってる身としては痛いところもありました。その点を含めて、読み応えのある本だと言えます。

中国人とのビジネスは落とし穴がいっぱい

深圳といえば、かつては日本含む海外企業の製造拠点が数多く存在したところであり、あやしい中華ガジェットやコピー品が作られていたところであり、現在ではハードウェアスタートアップが活発になっている都市です。

僕も設計した部品の製造を中国・深圳に外注することはありますが、著者のように製品をイチから企画し、現地の人と濃密なやり取りをすることは無いです。大抵は日本の現地駐在員を通したやり取り、それも製造にかかわるところに限定されたものだけです。それに付き合いのある業者は、調達部門が見つけ、監査してきた「品のいい工場」ばかりです。

著者のビジネスはもっと広く・深いです。企画から始まり製品を出荷するところまでカバーし、業者についても自分で開拓されています。その体験談は生々しく、中国人と直接ビジネスをすることの難しさ、それでもかかわり続けたくなる魅力、そんな深圳の清濁併せた全てが余すところなく綴られています。

これほど深圳で深く活動した方は他にいないでしょう。それ故にこの本に書かれていることは貴重で面白いのです。

製造あるあるは面白い

また個人的に発見だったのが製造あるあるの面白さです。いつも酒の席などで、メカ設計同士の笑い話にするような内容も書かれているのですが、これが思いのほか面白いのです。(実際に問題に直面している時は笑えないのですが…)

書く力によりけりなところもあると思いますが、自分も製造業あるあるについて書いてみたくなりました。

ペンチ片手に町工場でヒンジのトルクを手作業で調整したことや、外部からキラリ見える板金を誤魔化す為にマジックで板金に色を塗り続けたこと、ラベル貼り忘れの尻ぬぐいのために物流倉庫に突入して全箱開封してラベリングしたこと…飲み会での持ちネタは枚挙にいとまがありません。

考えさせられたこともあります。

「おわりに」で述べられていることについて

今のハードウェア・スタートアップの流れは一度死にかけた日本の製造業にとって、確かにチャンスではあります。そんな環境にありながら会社で働いていると、上への報告に使う資料作りや、開発に直結しない事務作業、本質と離れた指摘への逐次対応などで機動力の無さを実感させられ、その度にこれでいいのかと自問していました。

変化すること、ダメ元で行動すること、この精神は忘れちゃダメだと改めて認識させられました。とはいえ会社を変えるぜー!という気概までは持てないし、それで消耗していくことは僕の望むところではありません。だから少しずつでも個人でプロジェクトを持ったり、技術的なものに積極的に関わるようにしていこうと思います。このブログも、そのための手段にできれば幸いかな。

こんな記事も書いています。

temcee.hatenablog.com

家で3DCADが使えるのは有難いことです。問題は出力するのに結構な費用がかかること、5部品以上のアセンブリを更新するとPCが固まってしまうことです。

temcee.hatenablog.com

最近はコーディングがおざなりです。投資情報スクレイピングできるようにしないと(使命感)